エース・アトキンスによるスペンサー・シリーズの最新刊≪Kickback≫の翻訳をいただき、むさぼるように読了。安定の翻訳で読書のスピードもハイスピード。仕事が忙しいタイミングだったのだけど、スケジュール完全無視。いつまでたっても分別のある大人になれません。
ロバート・B・パーカーから引き継いだスペンサー・シリーズはこれで4作目となるアトキンス、筆のノリもかなりスムーズになってきていて楽しい読み物になっていますね。本家パーカーに比べるとプロットを多少複雑にするきらいはありますが、スペンサー・シリーズの読み物としては上々で十二分に合格点ですよね。
相変わらず古いキャラクターへの目のつけどころも秀逸。今作では何と驚きのスペンサー第1作『ゴッドウルフの行方』からアイリス・ミルフォードが登場。私も当然のことながら名前もストーリーも憶えていないわけですが(今慌てて?読み直しているところです)、そのアイリスがなかなか魅力的に書かれているところがとても嬉しい。このままレギュラーになってもおかしくないほど。一方で、アトキンスによって生み出された新しいキャラクター、メーガン・マレンも負けず劣らず魅力的。シリーズの歴史に対して敬意を払いながら、アトキンス自身の力と融合させる試みは今のところ成功しています。
それはそうと元バスケ選手のビル・バーグ、唐突に登場したので過去の作品から引っ張ってきた人だと思うのですが、今のところ覚えていないので、これから探してみないといけません。
民間刑務所の問題を司法の汚職と一緒に食い込んだのはなかなか面白いアイデアだし、タンパが舞台の一つになるのも目新しい。もっともタンパはアトキンスが専業作家になるまでジャーナリストとして働いていた場所。やはり自分の勝手知ったる場所を使いたかったのかも。
ぜいたくを言えば、もう少し判事二人との直接対決のシーンが欲しかったとうか、最終盤にカタルシスが欲しかった気もしますが、パーカーのオリジナルでも最終盤をあっさりと終わらせることがわりと多いので、これも原作リスペクトの現れなのかもしれませんね。あと、他に出てきた悪党どもともう少し戦ってほしかった気もしますが、これはボストン裏社会の勢力図の変化を意味しているのでしょうから、次回以降にお預けですね。
そうそう、ファン心理丸出しの乾燥になりますが、ヴィニィと少し仲直り出来てよかったですね。スペンサーの周りが強力になりすぎているので、ムードを引き締めるためにヴィニィを敵側に配置しようとしているのか?とアトキンスの気持ちを探っていたので。でもまだ安心できないかもね。あとは、そろそろチョヨとかサップとかも登場させてほしいっす。お願いします!
ということで、最後になりますが、翻訳がいつものように素晴らしい!感謝しかありません。アトキンスンの筆よりも先に波に乗ったようなスピード、しかも菊池光直系の文体にも磨きがかかって簡潔にして旨味成分たっぷり。本当にありがとうございます!