Dirty Computar

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さて相も変わらず聞き続けているジャネール・モネイの新作。先月27日に入手して以来、1か月経った今日まで毎日聴き続けている私。タイの片田舎のレストランでも小さなCD屋でも私の前に登場するほど一気にブレイクを果たしたモネイちゃん。当然ですね、はい。見事な映画出演を連発、満を持しての新作は果たして全方位に開かれていて、聴けば聴くほど素晴らしい。
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モネイとネイト・ワンダー、チャック・ライトニングのホーリー・トリニティによる製作。歌詞中にシンディ・メイフェザーは出てこないものの、路線を大きく変えることは当然ありません。スペースエイジな肌触りを残しつつ、アフロセントリックな芯をしっかり残した音は依然として抜群の説得力と包容力に満ち満ちています。曲中の展開に合わせて、様々な表情を見せる歌いっぷりにはわざとらしさがなく、この声のおかげで聴くたびに曲が緩やかにこなれていき、細胞に染み渡る。ジャネール・モネイが一人の人間として届けたいであろう層までこの声が届くとよいのですが。
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ディープ・コットンの二人に、脇を固めるのもケリンドゥ・パーカーにローマン・ジャンアーサー。ベースに新顔のジョン・ジョン・トラックスを迎えた他はいつもの面々。コードの使い方やメロの乗せ方には既視感もあり、圧倒的な遠投力を見せ付けた前作、前々作に比べると控えめな印象を初めに感じたのもまた事実。期待を高めるコーラスが美しすぎるオープニングの後に続くのが、淀みのない展開と割と素直な歌唱なだけに。
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が、しかし、ここはしっかりと踏みとどまって聴きこんでいくべきなのです。聴きこんでいくとまた違った表情が見えてくるので、素通りしてしまうのはもったいない。オハイオ・プレイヤーズがワープする宇宙船の中で演奏しているような“Take A Byte”でのレイドバックした喉から生まれるグルーヴ。ブレイクの前後からこっそり変えていく表情。サンダーキャットのウニウニしたベースは少し前のエリカ・バドゥとのライブを思い出します。この手の曲をサンダーキャットには期待しているのだけど。ケリンドゥのこの上なくキャッチーなリフで始まる “Screwed”では筋肉質なジョン・ジョン・トラックスのベースの波を自在に乗りこなす天性のバランスの良さが際立ちます。トラックスのベースはネイト・ワンダーに比べるとリズムに対する粒立ちが良いので、モネイの技がより冴える気がしますね。
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更に言うと、アルバムと同時に発表された映像集”Dirty Computer”、これは必見です。これを観る前と後で音の印象が全く変わってくるので。映像を見て、声の使い方や重ね方の深みに気が付き、ため息が漏れる私。それにしても改めて映像で見ると、プリンス趣味よりもやっぱりマイケル風味が強いのが面白いし、モネイの存在に初めて気付いた2010年のあの夜からその印象が私の中でずっと変わらないのも面白いです。
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多分結構な数の人が期待していたプリンス色は思ったほど濃いものではない。全面的にプリンス色を出す方向に振り切ることも出来たのだろうけど、あえて成分(精分?)を宇宙全体に散りばめてきたという方が正しいかと。

もっとも映像を観ないと魅力が伝わらないのかと言えば、そんなことは全くないのがジャネール・モネイ(それでも映像観た方が良いけれども)。殊にジャネール・モネイに求める様々なエッセンスが凝縮されている中盤以降は理想的な流れを魅せます。映画ブラックパンサーのオコエにインスパイアーされた“Django”は得意のローリン・ヒル直系のフロウを披露。オコエのカッコよさに勝るとも劣らないモネイ。ブラックパンサーに足りなかったものはモネイの存在なのか?続く“Pynk”は単なる可愛い曲と思わせておいて、実は歌詞を含めこのアルバムの核となる曲。コーラスのアレンジとギターの組み合わせも素晴らしい。
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アルバム発売の報と共に紹介された“Make Me Feel”は文句なし。プリンス色全開の曲調。シンセのリフはプリンス作という噂もありますが、クレジットはありません。“Kiss”と同じくコーラスには本当に一緒に口ずさめば気持ちが良くなっていく魔法がかかっている。後半のイケイケなファンキーな歯切れのよい声、正直言うと2曲目でこの声が聴きたかったのです。続く“I Got The Juice”でのファレル・ウィリアムズとのコンビネーションの良さ。後半のスクリューになってロボ声が全面に出てくるパートの美しさも◎。ファレルとの相性の良さは誰もが認めるところなので、そろそろがっぷり四つで組んでもらいたいものです。
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今日の時点(おそらく今後もずっと)では、続く“I Like That”、“Don’t Judge Me”、特に“Don’t Judge Me”がアルバムの中核かと。徐々にむき出しになる生身のジャネール・モネイ。この人の本質的な魅力とは、常にどことなく苦みやビターな響きを伴っていて、その苦味を温かく包み込んでみせる声だと思うのですが、その温もりをこんな形で聴かせてくれると私はただひたすら満たされてしまいます。アルバムに合わせて行われたローリング・ストーン誌のインタビューではパン・セクシャル発言と共に過去に受けてきた苦しみについても吐露していたモネイ。インタビューを踏まえて聴いたので更に深みが出るかもしれませんが、もっと単純に歌だけで酔わせてくれる、そういう曲だと思うのです。
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おそらく過去2枚ともっとも違う点はこの生身のジャネール・モネイ・ロビンソンとしての感情の開放かもしれなません。希望が確信に変わっていく中での自信。ソーシャル・アクティビストとしての自身の思いをどこまで遠くまで届けられるか、どこまで遠くの人を抱きしめられるか。ムーンライトでのあの慈愛に満ちた眼差し、ヒドゥン・フュギュアでのあの自己肯定と未来への確信。アルバムの最後を締めくくる“Americans”を聴きながら、ジャネール・モネイの未来への広がりに思いがぐんぐんと膨らんでいくのです。
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by zhimuqing | 2018-05-26 14:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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