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マーサはかっこいい!

映画デトロイトのライブのシーンにモータウンの綺羅星のようなスターの中からマーサ&ザ・ヴァンデラスがなぜ選ばれたかというと、それはマーサ・リーヴスの歌いっぷりこそが67年夏のあの空気感に相応しいと判断されたからでしょう。なにせ暴動を煽る可能性があるからと、“Dancing in the street”が放送禁止にされたぐらいですから。

マーサ&ザ・ヴァンデラスはモータウンの中でも著名な割に、もう一つきちんと聴かれていないグループ。というより、たぶん一度も正当に評価されていないグループなのかと。モータウンで出したアルバム8枚も再発されるのは決まって≪Heat Wave≫や≪Dance Party≫ばかり。基本的にベスト盤でお茶を濁されている感じですね。その他のアルバムは確か10年以上前イギリスで2in1の形で再発されただけではないかと。この時代のポピュラー音楽はシングル中心で、アルバム収録曲は安易なカバー曲がほとんどで、あまり重要ではないとはいえ、なかなか寂しいものです。
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歌手としてのマーサ・リーヴスの評価も中途半端というか、初期モータウンでヒットを飛ばしました、その曲をロックスターもカバーしました、モータウンのスターの座をダイアナ・ロスに奪われてしまいましたというような話が多く、歌手としてもなかなか魅力的なのに、勿体ないと思うのです。鼻っ柱の強そうな気風の良い歌いっぷり、完熟一歩手前の硬さの残る青いブルージーな雰囲気で強引な節回しがまた可愛い。サウンズ・オブ・ヤング・アメリカのイメージにぴったり。スクリームやシャウトする時には教会で鍛えられた素地も露わになるし、力の抜き差しも結構巧みだし、私は大好きなのですが。

ということで、話は1967年に出たライブアルバム。ヴァンデラスの二人はロザリンド・アシュフォードとベティ・ケリーの黄金トリオ。この時期、モータウンは自社のスターのライブアルバムを一通り出していますが、これもそのシリーズの一枚。一番有名なのはおそらくテンプスのライブで、あれは一緒に歌って踊って泣ける名盤ですが、ヴァンデラスのライブも負けていませんね。テンプスやフォートップスはThe Roostertail's Upper Deckでのライブですが、こちらは20 Grand。ま、会場のことはよく分かりませんが、あまり大きくない会場ならではの熱気が伝わってくるのが良いですね。
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自身のヒット曲に加え、カバー曲が4曲+メドレーで出てくるα。カバーはテンプスのポール・ウィリアムズが歌っていたバージョンに近い “For once in my life”、ファルコンズの“I found a love”、アリサの“Do Right Woman”と“Respect”をメドレーにしたもの。選曲に本人の意思がどのくらい反映されていたかは分かりませんが、本人はモータウンから若者向けのポップなナンバーばかりを宛がわれることが不満で、もっと成熟した路線を歌いたかったという話もあるので、これは本人の意思だというのが私の想像。モータウンの成熟路線といえばコパクラブ向けのスタンダードのイメージがありますが、ここから伺えるのはむしろもっとダウンホームな路線。スタックスの躍進を意識していたのかもしれないし、それとも地元デトロイト愛(ファルコンズもアリサもデトロイト)に溢れていたのか?本人に聞いてみたいところではあります。

ライブは序盤こそ少し硬さがあるように思えますが、“For once in my life”をばっちり歌い切って完全にペースを掴み、“Heat wave”、“Nowhere to run”と必殺の大ヒットを繰り出すという勝利の方程式。A面のラストは私が大好きな“My baby loves me”。本人の思い入れも深かったという曲だけに、曲の頭からプリーチするように自信にたっぷりの歌を聴かせます。観客の反応も実にヴィヴィッド、というかいきなり客席がヒートアップするので、別の日のライブなのかもしれないのですが、どうでしょう?

ちなみにこの曲でマーサの歌と並んでインパクトが大きいのは転がりまくるギター。あのシグネチャーな音。クレジットはないものの、間違いなくデイヴィット・T・ウォーカー。歌に呼応する見事なギターワーク。とはいえ、67年、もしかしたら66年。まだこちらも完熟手前。勢いに満ちたバンドの演奏もありますが、“Heat wave”で無理矢理はめ込むようなオブリ、“Nowhere to run”での強引なワイルドで粗野なフレージング等、後年見せなくなったワイルドで粗野なフレージングが飛び出します。それでいて歌を邪魔しないという職人芸。マーサの歌との相性も抜群かと。

B面はファルコンズの“I found a love”からスタート。教会仕込みの底力をまんべんなく魅せます。続いて、思いっきりモータウンだったシングルよりもずっとブルース寄りに料理した“Jimmy Mack”。むしろ曲に含まれていた成分がマーサによって増幅されてしまったのか。これまた私の好きな“You've Been In Love Too Long”も原曲のファンク度が増幅。ミッキー・スティーブンスとクラレンス・ポールの曲ですが、こういうアーシーなファンキー路線は本当にマーサ・リーヴスにぴったり。デヴィ爺、いやデヴィ兄も完全ブルースマンモード。誰かは分からないドラマーのファンクネスも◎。

ややかすれ気味に攻める“Love (makes me do foolish things)”はなぜか曲の終盤で拍手が入るのですが、これは何が起こったのでしょう?妄想を膨らませるしかありません。アリサの“Do right woman”は曲が始まると流石に盛り上がる会場。アリサのタフな感触とはまた違う尖ったワイルドさ。これはこれで貴重な味わい。で、ラストはバンドと一体化してぐいぐい攻める必殺の“Dancing in the street”。コリコリ攻めるデヴィッドT、これまたプリーチする教会直送のマーサが素晴らしい。二人の掛け合いが楽しい。マーサも気を良くしたのか、曲の途中でデヴィッドT、そしてアール・ヴァン・ダイクを紹介。オルガンを弾いているのはヴァン・ダイクであることが判明。他のメンバーも紹介してくれたらよかったのに。ヒーンのアレンジャーはマーヴィンとの仕事で後年有名になるデイヴ・ヴァン・デピットなのは分かっているのですが。

ということで、モータウンのライブ盤ではこれはなかなかのお勧め盤。中古で割と安く転がっているので、チャンスがあればぜひ。

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今は廃墟になっている20 Grind。タイムマシンがあれば行ってみたいよね。警官につかまらないようにしないといけませんが。
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by zhimuqing | 2018-02-09 08:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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