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太古の精霊を掘り起こしたのか?

本当に凄いものでした。
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98年発表の“The Miseducation of Lauryn Hill”は
ドゥーワップまで遡る豊潤な水脈の粋とヒップホップとの
架け橋を見事に架けたうえでグッと凝縮したもので、
輝かしい未来はヒルが握っていると当時誰もが思ったものです。
あれから18年、活動しているのか休んでいるのか、
はたまたゴシップ誌をただ賑わせているのか、
よく分からなくなっていたローリン・ヒル。
18年後に浮上した姿はとんでもなく進化あるいは深化を
遂げたものでした。

ドゥーワップどころか、ブルースの根っこの下の下を
ずっと掘り進めるうちに、地下で眠っていた大昔の精霊を
呼び起こしたかのような。
アフロ・スピリチュアルというのが一番しっくり来るかな。
でも片仮名で書かれた上っ面なものでなく、
もっと平仮名的というか、土着な何かを濃厚に感じさせるもの。
掘り進めるうちに西アフリカ由来の精霊に突き当たったのだろうけど、
十字路にいるレグヴァではなく、オシュンでしょう、あの姿は。
川の女神。富と出産、女性の美を司る色っぽい女神。
と同時に、自己の出自、ライムを紡ぐMCとしての矜持も
おろそかにしていないこともビシビシ伝わってきたのが嬉しい。

例えば、単にアフロビートを取り入れてみました、というのとは
100億光年ぐらい離れていますね。
DNAの中にある西アフリカ成分を増幅して
体の細胞全体から発散している感じ。
何気ない節回しに強烈な西アフリカの響きがあるし、
コーラスを含め強烈にハチロクを感じさせる。
(過去の大ヒット曲をやるときに特にそれを感じました)
バンドの揺れが足りないときはハンドクラップで手を叩いて
リズムのノリをたちどころに修正するし、
随所随所で各メンバーの細かいキューを出しまくる。
その殺気に満ちた姿。

バンドは決して下手なわけではなく、相当な手練れ揃いなのだけど、
おそらくは脳内で流れる音をその場で再現したくなる体質なのでしょう。
インプロヴァイゼーションをステージ全体で出てくる音で
表現したいのかもしれない。
コーラスまで随時指示を出しますからね。
ベースは一音間違えただけで、物凄く睨まれますからね。
逆に言うと、その溢れ出るイメージをメンバーが解釈し
独自に発展させるのはあまり好きではないのか?
あるいはイメージをまだ共有するまでに至っていないのか?

この辺は選び抜かれたバンドメンバーとのコンビネーションを
信じて疑わないようなディアンジェロとはかなり違う部分かと。
まあ、ディアンジェロの周りを固めるプレイヤーは別格ですからね。
その辺の完璧超人と今のローリン・ヒルがじっくり組んでみると
出てくる音は更に凄いことになること間違いないでしょうけど。
クリス・デイヴ+ピノ+シャーキーのヴァンガード勢や
ンデゲオチェロとかチャーリー・ハンター、フュンジンスキーとか
カマシ・ワシントンとかサンダーキャット周辺ミュージシャンとか。
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上にも書きましたが、ハンドクラップ等で気合を入れると、
いとも簡単に音の密度が濃くなり、ギアもガンガン上がるのは、
おそらく全盛期のJBとかフェラ・クティの直系かと。
歌も絶好調、フロウも最高、本当に凄い場所に辿り着いたのだな、と
凡人は遥か下界からただただ見上げるのみ。
ローリン、可愛い!と歓声をあげにきた普段濃厚音楽に
関係なさそうなライトなお客さんも
むさくるしいオッサン(ン、私の事か?)も引き込みまくる。

ルーズにもタイトにも自在にファンクを決めるディアンジェロとも
ギリギリと鍛え上げてシャープなショーを決めるマックスウェルとも
宇宙の果てまで突き進むバドゥとも、また違う個性。
ステージを見る喜びとしてはそれぞれまた異なる喜びがありますが、
スリルという部分では一番なのではないかと。
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ステージ構成も完璧でしょう。
代表曲で初めて、2枚目のアンプラグドでの曲を中心に進める前半。
アコギをもって座った時にはしっとり歌い上げるのかと思いきや、
ここでの西アフリカのグルーヴが細胞からにじみ出てくる爆裂演奏で
聴き手を完全に悶絶させる。
そうそう、アコギの演奏が実にシャープなことにも驚きました。

で、一息つかせるかのように“Ex-Factor”。
なんですが、自己の深化に合わせて曲のアレンジも完全に変わっていて、
更に悶絶させつつ、その後は“Final Hour”、“Lost Ones”の2連発。
で、類稀なるMCとしての自分を誇示するかのようなフージーズ3連発。
“How Many Mics”、“Fugee La”、“Ready or Not”。
その昔、オルタナティブなヒップホップ、MCではなく、
あくまでも自分は正統なMCなのだ、とインタビューに答えていたのを
思い出したのは私だけではないでしょう。
で、とどめを刺すかのような、オリジナルに比べ濃度100倍の
“Killing Me Softly”。

私は正直この時点でもう大満足。
1時間以上経っていたので、あとはソロ曲やってエンディングかな?と
思っていたのですが、ここからが全く予想外の展開。
多分会場にいた人はみんなびっくりしたと思うのですが、
まずはシャーデー2連発。
ナイジェリアとシャーデーは縁があるとはいえ驚きました。
“Your Love is King”をやった時点で興奮しましたが
さらに“Sweetest Taboo”が来るとは思いませんでしたね。
シャーデーの音楽が奥深くに秘めているアフロな心意気を
見事に表出させるローリン・ヒル。
思わずお会いしたこともないですが、絶対に会場にいるはずの
STRONGER THAN PARADISEのAbeja Mariposaさんが
狂喜している姿を想像しました。
(ブログ拝見したら、やっぱり会場にいたようですね)

更にその後はスティーヴィーの名曲“Jammin’”。
ローリン・ヒルがプロデュースしたメアリーJの名曲は
そういえば全盛期スティーヴィーの空気感が満載だったことを
思い出しつつ(というか、しょっちゅう聴いています)、
続いて今度はボブ・マーリー3連発。
“Turn Your Lights Down Low”、“Is This Love”と来て、
“Could You be Loved”。
(出だしにつまづいて、ギタリスト怒られないか心配だったけど)
この辺の演奏がまた素晴らしく、100%ピュアなレゲエではなく、
今演っている音楽のぐっと寄せた演奏で、こちらの気分は更に高揚。
で、続くのが必殺の名曲、ただし大幅改定の“To Zion”。

これで終わるかなと思わせておいて、お次は昨年出した
ニーナ・シモンのトリビュートから3曲。
一気にブルージーに迫ってくる。
で、最後はみんな大好き“Doo Wop (That Thing)”で締める。
1枚目の代表曲→2枚目→代表曲→MCとしての自分→
影響を受けたアーティスト→義理の父→最新作→最大のヒット曲。
完璧な流れでしょう。
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実はステージ上のPAの返しがあまり聞こえなかった模様で、
ドラムやハモンドの音を上げろとしきりに指示しまくること1時間。
集中力に欠けていたかもしれないコンディションの悪い中での
あのパフォーマンス。まったく信じられないですね。
あっという間に2時間、26曲。
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もちろん、ライブもまた観たいが、今この瞬間は
あの衝撃をじっくり自分の中で消化したいという思いの方が強いかも。
とりあえず私が望みたいのは、完全な新作の制作ですね。
厳選したミュージシャンとの綿密なリハを重ねたうえでの録音。
なかなか完成しないかもしれませんが、絶対に作る価値がある。
絶対に未曾有の名作になるはず。
というか、作らないと人類の損失かと。
たとえばケンドリック・ラマーがジャズのメンツと目指しているものとも
遠いようでかなり近いものになるはず。
ただしアフロ濃度は遥かに濃厚なものになるでしょうけど。
まあ、とにかく素晴らしかったということで。
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追伸1
バンドが登場するまでのDJタイムの長いこと長いこと。
何となく嫌な予感はしたのですが、19時開演後、1時間強続くのは
苦痛でしかない。
DJも初めは熱心に煽っていたのですが、客はみんなだれるだれる。
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これはかなりだれている場面。

あれ、やるほうも辛い、というか針の筵でしょうね。
40分経った時点で曲をつなぐこともなくなり、
1曲かけてはすそにはけるという、やる気のない有様。
選曲も悪かった。
初めこそ、黄金時代のヒップホップの連打で盛り上がりましたが、
後半はただただアッパーなEDMもどきの曲。
耳と足が疲れるだけ。
ま、その我慢も素晴らしい演奏で報われたわけですが。

追伸2
ベースのお兄さんは今を時めくNBAのウォリアーズの
クレイ・トンプソンに激似。
ただし体重は4倍ぐらいありそうでしたけどね。
PAのせいか低音の残響がしつこくて、大変そうでしたが、
やはり凄腕でした。ま、当たり前か。
by zhimuqing | 2016-10-29 02:24 | Funkentelechy | Comments(0)
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