向田邦子、分かっていたけど、なかなか凄い。
何せ私が小学生3、4年の時に亡くなっているので、
これまで全く接点がなかったのですが
今年のベスト・ドラマの “トットてれび”での
ミムラによる名演を見て興味が沸いていたのですね。
とはいえ、たまたま本屋で文庫本が目に付くまで
あえて読んでみようと思わなかったのですが。
名演揃いのトットてれびですが、ミムラの演技はとても素晴らしかった。
とりあえず読んでみたのがエッセイ集の「父の詫び状」。
これが初めてのエッセイ集らしいのですが、驚きました。
強く握りしめてしまうと壊れてしまうであろう過去の思い出を
絶妙な握力でつかみ取るそのバランス感覚、
淡々とした筆致なのに実に鮮明な描写、随所に滲み出るユーモア、
バラバラなようでいて最終的に題に見事に結びつく展開、
他ではあまり味わうことが出来ない名人芸ですね。
これはもの凄いものを見つけた(今更なんでしょうが)と
これまた古本屋で長編小説「あ、うん」を。
残念ながらこれが最初で最後の長編小説。
といっても、連続ドラマの脚本のようでもあります。
(実際にドラマに何度もなっているようですが)
随筆で感じた名人芸がここでは更に多様に展開。
水田と門倉とたみとの3人の絶妙なバランス。
そうですね、向田邦子の特徴の一つはこの塩梅でしょうね。
ラジオやテレビの世界で鍛えられたものなのかもしれませんが、
やはりこの人の素質としてあったものだと思いますね。
事故によって中断されてしまったのは返す返すも残念ですね。
短編小説やエッセイ集はまだほかにもあるので、
しばらくは読むものに困らないとは思いつつも、
こちらは登場人物に思い入れが出てきていますからねぇ。
そんな訳で、突如向田邦子に目覚めてしまった私、
エッセイや短編を古本屋で山盛り買い込んだのですが、
100円で転がっている古本、読まれた形跡が全くない、というか、ほぼ新品。
おそらく不良在庫を処分したのでしょうが、
私の懐には優しいけど、何とも勿体ないというか、
世の中の物の価値というのはなかなか難しいものだなと思うのです。