アニタ・ベイカ―のCDを買ったのは多分高校2年生の時ですが、
周りの同級生がボウイとかブルーハーツとか尾崎豊、
オシャレな同級生がビリー・ジョエルとかスティングを聴いていた中、
なんというオッサン趣味な高校生でしょうか。
面倒な感じですね、なんとなく。
いえいえ、プリンスとパブリック・エナミーも聴いているよ、と
当時の私は反論したでしょうが、全くモテそうにありませんな。
とはいえ、アニタ・ベイカ―、最近は音楽のサイクルが一回りしたおかげか、
かなり心地良くて、また同時に発見もあり、
今聴いても面白みがあって悪くない。というか、かなり良い。
ベイカーの温泉が溢れ出るような滋味と閃きに満ちたフレージング、
針の目を通すような喉のコントロールは素晴らしいとしか言いようがない。
ジャズの影響を受けた声の響かせ方はコアなソウル好きには不評ですが、
カサンドラ・ウィルスンと並んで、ソングライティングを含め、
以降のアーバンな歌唱のスタイルの源流であることがよく分かります。
もちろんR&Bの王道の歌手に対する影響も絶大。
デビュー前のデモでベイカーの曲を歌っていたのがメアリーJなのは有名だし、
その他にもフェイス・エヴァンスやジル・スコットなんかのフレージングにも
相当な影響を与えていますよね。
ベイカーの歌と同時に気になる(高校生には分からなかった)のは、
ミディアムなナムバーでのファンキーなボトムの素晴らしさですね。
≪Rapture≫でのリッキー・ロウスンとフレディ・ワシントン、
≪Giving You The Best≫のネイザン・イーストとオマー・ハキム、
よく聴くと、それぞれ色合いや風味がずいぶん違うものの、
ベイカーのくつろいだ歌を柔らかく包みつつ、
歌に呼応したハッとさせるような演奏がカッコいいです。
大ブレイク作≪Rapture≫とそれに続く≪Giving You The Best≫、
正直甲乙つけがたいアルバムで、甲乙つける必要もないのですが、
こころもち前ノリにリズムを置きにくるオマー・ハキムより、
よりどっしりとしたロウスンのほうが歌の旨みが増す感じなので、
演奏との相性では≪Rapture≫に軍配を上げたいですね。
とはいえ曲の出来でいえば、B面後半が軽い≪Rapture≫に対して、
≪Giving You≫は全編通して素晴らしく、前作の成功を受けて
曲作りに自信と確信を感じたベイカーとパウウェルの姿を感じるかな。
ちなみに私は長らくネイザン・イーストは刺激がない、可も不可も無い、等と
考えてきたのですが、≪Giving You≫での演奏は曲や歌の展開との駆け引きが
実に見事で唸らせられるばかりで、驚きました。
私の耳が単に分かっていなかったのでしょう。
あ、≪Rapture≫でのフレディ・ワシントンの凄さは他の客演と同じく
当然カッコいいです。
あとは、アニタ・ベイカーの目の確かさと鋭さですかね。
無名なのでエレクトラから難色を示されたマイケル・J・パウウェルを
プロデューサーとして≪Rapture≫のアルバムに引っ張ったことなんかは
バンド時代の縁があるとはいえ、相当な鋭さを感じさせるし、
多くの先達が試みながら、なかなか出来なかった音作りをパウウェルと成し遂げ、
レトロヌーヴォー、更にはネオ・ソウルの道筋を付けたのも素晴らしい。
更にはシャーデー等のイギリス勢の音作りもその掌中に収めている。
(もっとも歌唱力が全く違うけど)
ということで、正直言って≪Giving You The Best≫の後については
当時ヒップホップやファンクにどっぷりにハマっていった時期で
きちんと聴かないまま、中古屋に売り払ったりしていたので、
とりあえず近々ブックオフにでも格安を探しに行ってみよう!とか
まあ、そんなことを考えている次第です。
エレクトラでの最初の2枚は寒い冬の夜にほっこりするには必携ですよ。
中では、ケムが一番かな。エル・デバージ先生の変態っぽさも素晴らしいが、
大きくなってしまったベイカーの貫禄にはかなわない。
あとは後半、ずっと盛り上がっているモネイちゃんか!
こちらは同日のロナルド・アイズリー・トリビュート!
こっちも相当な濃度というか、コテコテぶり。