今みたいにネットが発達して情報が自在に入ってくるとなると、
音楽を色々聴いてみるにしても、自分で探求することがなくなって ネットでちょこっと調べたり、本屋でガイドブックを開いてみたりすれば 大体分かったような気になってしまうのですね。 特に後追いで聴くミュージシャンはビッグネームになればなるほど、 あの名盤を押さえとけば大丈夫!みたいな感じで、 ろくに聴かずに分かった気分になってしまい、 バシバシ再発されるマイナー盤やレア盤に目移りしてしまうというのが、 自戒をこめて言いますが、非常に多いわけですね。 ということで、レイ・チャールズですよ、奥さん。 レイ・チャールズといえば、黒い音楽愛好者である我々にとっては ブルースとゴスペルを合体させ新しい音楽を作ったアトランティック時代。 私も数年前に発売されたアトランティック時代のボックスを購入して以来、 その時代、つまり全盛期とされる音、に触れて満足していたわけです。 当然、ABC時代のカントリーにはあまり興味もないですし。 そんな状態のなか、ある時偶然耳にした(正式には目にした)のが スティーヴィーの「汚れた街」のカバー。 いや、参りました。やはり本物中の本物の輝きは違う! 75年の地味な時代、こう言ってはなんですが、全盛期を過ぎて 世間からもほとんど注目されていない時期なんですけどね。 よくよく考えてみると、大傑作『ブルース・ブラザーズ』(80年公開)、 あの中で一番カッコよく、一番ファンキーだったのは?と言うと、 JBでもアリサでもなくキャブ・キャロウェイでもなく、 そこはレイ・チャールズだったわけで、この時期のレイを 軽視はせずとも、分かった気になって放置していた自分の不明を 改めて感じたりするのですが。 スティーヴィーが作る曲は当たり前のことだが名曲が多く、 色々な人がカバーしているのだけど、 原曲に並ぶレベルに仕上がったものは実は非常に少ないのですが、 フラッシュ・ディスク・ランチの椿さんも太鼓判を押すほど、 この曲の仕上がりは上々というしかない。 アレンジは原曲よりもオーソドックスなのですが、 声に含まれる滋味とファンクネスの含有率たるや途方も無い。 一声放つだけでその場を支配する磁力はやはりワン&オンリーですね。 歌を聴くだけで、身体を揺らしている姿が 我々の脳裏にくっきりと浮かぶというのも冷静に考えると凄いことですね。 途中で聴かせる語りも壮絶だ。 ウーリッツァーの名人としてもなぜか名前が挙がらないが、 このアルバムでのプレイは凄い。 LPにクレジットが全く記載されていないので分からないが この演奏は本人と見ても間違いないでしょう。 揺れの達人ハザウェイに比べ、もっとグニュグニュした猥雑で濃密な空気が 実にタフで美しい。 どうしても「汚れた街」の印象が強くなるのは仕方がないのですが、 このアルバム"Renaissance"、他の曲も実はすこぶる良いのだ。 ビッグバンドを随えて寛いでみせる“There We’ll Be Home”で魅せる、 筋力の弛緩と緊張の間の変幻自在な歌、これもまた名曲。 ブレスの時の呼吸音さえもファンキーだ。 リズム隊のまとまりは流石だが、親分が親分なんでそれも当たり前ですね。 酸いも甘いも噛み分けた上での説得力の塊。 より南部風味が強いた“We’re Gonna Make It”。 リトル・ミルトンの代表曲として有名な曲だが、 この辺りの音とレイ・チャールズの相性が悪いはずも無く、 どう転がっても悪くなるはずもないが、完全にレイ印のアレンジで 60年代の音とはまた違うバックとの調和がまた新鮮。 B面の頭“For Mama”は難物ですね。 シャルル・アズナブールのカバーらしいのだけど、 さすがにここまでベタベタすると厳しい。個人的にはパスさせて頂きたい。 同じようなポップな“Sunshine”はさすがにB①よりは良いが、 さらっと終わってしまい、あまり耳に引っ掛からず、物足りない。 が、邪魔にはならないので、十分に許容範囲ですね。 “It Ain’t Easy Being Green”で一気に元の流れに引き戻して一安心。 ゴージャスなバックの場合もこういう曲調だと外れ無し。 力の無い人が歌うと、多分ダメダメなんだろうけど、 この声の深みがあれば、最高なんですよね。 まあ、そういう意味でも反則技とも言えるのですが。 ラストのランディ・ニューマンのカバー“Sail Away”、 これはアルバムの隠れた名唱。ベスト盤に入っていてもおかしくない。 ゴスペルのコーラス隊を随え、じっくりと歌い込む。 アイロニカルな歌詞で有名な曲だが、その辛辣な歌詞を踏まえつつ、 それを乗り越え未来に繋げていくかのような力強さと暖かみを湛え、 アルバムの幕を閉じる。 こうやって聴いてみると、駄曲(と敢えて書く)が1曲のみ。 8曲中3曲がグレイト、1曲が良作、1曲が可も不可もなし、 そして2曲が大傑作!!ということで、これは実にいいアルバムですね。 70年代のアルバムはまだほとんど評価されていないけど、 こういう曲が埋もれているのなら、色々漁ってみる価値は十分にありますな。 要はレジェンド扱いして神棚に飾っておくべきではない、ということなのだ。 最後のこのカバーを誰よりも喜んだと言われるスティーヴィーとの共演を。 レイの髪の色から多分80年代半ば以降だと思う。 70年代にレイをスティーヴィーがプロデュースしていたら、 どんなことになったかと想像すると、鳥肌が立つのは私だけではないはず。 楽器で出来ることには限りが無い。 ピアノの持てる全ての機能を使いこなすなんて出来っこないんだ。 でも、人間は自分の能力の限界に達することは出来る。 楽器が自分を限界まで引き上げてくれるのさ。 ~ レイ・チャールズ ノーマン・シーフ(カメラマン)に向かって 1985 LAにて ~
by zhimuqing
| 2014-04-22 00:17
| Funkentelechy
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