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63頁の薄くて濃厚なブックレット

本屋に原発の本を買いに行ったのだが、
このタイミングなのに(だから?) 全く見当たらない。
無い訳ではないのだけど、非常に分かりにくいところに置いてあるか、
あるいは全く置いていないか、のどちらか。
出版不況の今日、私が本屋の担当者だったら全力で仕入れて
これでもかって店頭に並べるのだけどね。
もっとも今回の震災以前だったら、メジャーどころ出版されているのは
電力マフィアの息がかかったというか、甘い汁を吸った本かもしれず、
そうだったら、誰も手に取らないのだろう。

ということで、何店舗か廻ってようやく見つけましたよ、
吉岡斉著「原発と日本の未来 原子力は温暖化対策の切り札か」。
岩波ブックレットの1冊ですけど、それにしても10年前だったら
このブックレット・シリーズもどこでも置いていたような気がするのだけど。
時代は変わっているのですかね。
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2011年2月8日発行ということで、出版から1ヶ月足らずして、
いきなり前提条件が激変してしまっていることが
実に感慨深いですね(というか、もっと焦っているけど)。
ということで、63ページのこの薄いブックレット、
目次を見ると、こんな感じ。

Ⅰ 原子力論争における冷戦時代の終結
Ⅱ 停滞する世界の原子力発電
Ⅲ 難航する日本の原子力発電
Ⅳ 日本の原子力政策の不条理
Ⅴ 原子力発電と地球温暖化

ということで、地球温暖化の話はあまり書かれておらず、
そういう意味では表題と完全に合致しない気もするけど、
中身は相当に凝縮されていてかなり読み応えがある。
「筆者は原子力発電に対して『無条件反対』の立場はとらない。」といいつつ、
バッサバッサ切りまくっていく姿はなかなか爽快なものがありますね。

世評とは違って原発が実は経済性に乏しく、競争力が無い事業であり、
実は大多数の原子力発電事業は採算面で問題を抱えていると
バッサリ切るⅠ章からいきなり引き込まれますが、
世界の原発の動向について実態と大きく乖離した内容が日本で報道されていることを
各国の事情を交えながら分かりやすく詳細に触れているⅡ章へと続き、
日本の原発は実は世界に比べて設備利用率が突出して低いことや
核燃料事業も実は低迷していることを暴露?するⅢ章が
このブックレットの肝の部分ですかね。

実はコスト面で原発は火力・水力発電コストと同等か、やや劣位であること、
ウラン濃縮が難航しているため、日本の価格は国際価格に比べ数倍であること、
MOX燃料はウラン燃料コストの10~20倍にもついてしまうのに、
そこまでしてプルサーマル計画を進める理由は以下の2点であること。
①軍事転用の観点から核技術を保持し続けること
②再処理を中止すると、全国の原発の核燃料貯蔵プールが満杯になり
 多数の原子炉を停止せざるを得なくなること
この辺のことは恥ずかしながら、初めて知る事ばかりで、
我ながら全く情けないことであります。

Ⅳ章での、原子力発電拡大と温室効果ガス排出削減の間には正ではなく、
負の相関関係が認められること、つまり脱原発を進めている国のほうが、
温室効果ガス排出削減に関してずっと積極的に取り組んでいる事実も、
知っている人には常識なのだろうけど、私にはかなり新鮮。
苦し紛れの机上の温室効果ガス排出削減手段として
環境政策に不熱心な国が、原発を挙げている、との指摘は的を得ていると思う。

ということで、経済面と温暖化対策という、推進したい人達が
錦の御旗にしている部分から攻めている、この論議の組み立ては
今後非常に役に立つと思いますね。
なにせ、原発がないと停電だ、と恫喝するカツラ(でしょ?)の人や
原発を欠かしてしまったら経済は立っていかないと抜かすビチハラなんかが
のうのうとしていますからね。

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と、なかなか良い本を書いている吉岡先生、
その昔、仲間内でマッコウとあだ名をつけて大変申し訳なかった。
あれは、若気の至りでした、反省しています、尊敬しています。
でも講義にはちゃんと出ていましたよ。
と、そんなことを考えていたら、朝日新聞の25日朝刊に投稿していましたね。
その中身が当たり前だけど、これまたど真ん中。
長いけど、全文引用して、オシマイ。

日本の原子力発電事業の特徴は、政府のサポートが、
他の国に比べてずっと強いことだ。
所轄官庁と電力業界がほとんど一体になっている。

日本の経済状況がどう変わろうと、
原発の基数は一定のペースで伸び続けてきた。
通商産業省(現経済産業省)の強力な指導があったことをうかがわせる。
他の国では、支援することはあっても、
政府が事業計画まで細かく介入したりはしない。

原子力安全・保安院は経産省傘下だから、
安全行政も経産省が事実上握っている。
特に2001年の中央省庁の再編以来、
ますます独占の弊害が強くなった。
それまでは安全行政のかなりの部分を、旧科学技術庁が担っていたが、
中央省庁再編の時に、経産省が推進も規制もするという仕組みができてしまった。

米国では、原子力委員会が推進も規制もやるのは問題だとされ、
規制を分離して原子力規制委員会(NRC)をつくった。
スリーマイル島事故の収拾にはNRCが陣頭指揮をとり、
地方行政当局と連携して解決にあたった。
電力会社と癒着してはいなかった。
日本でNRCにあたるのは内閣府の原子力安全委員会だが、
現場に立ち入って指揮をとるだけの力がない。

保安院と電力会社の関係も問題だ。
今回も、海水注入を決断するまでにかなり時間がかかっているが、
おそらく東京電力が廃炉にすることを渋ったのではないか。
電力会社の意向を聞きながら対策をやっているようでは、
後手後手に回ってしまう。

これだけの被害を出した以上、原子力行政は見直さざるをえない。
まず既存の原発の安全性をひとつひとつ検討し、
特に危険なものについては、廃止も視野に入れるべきだ。
今回のような地震・津波災害にも耐えられるよう、
安全対策の抜本的強化も必要になってくる。
さらに防災計画も、広域的かつ中身の濃いものにすべきだ。

原発は、燃料費こそ火力に比べて安いが、設置コストが高い。
今回の事故でさらに安全対策のコストがかかるし、
その経営リスクはきわめて大きい。
政府が積極的に原子力発電を推進することを止め、
電力会社が自由に経営判断できるようにさえすれば、
おのずと原発から撤退していくはずだ。

現行の原子力損害賠償法では、電力会社に 
1200億円までの保険をかけることを義務付け、
それ以上については国会の議決を得れば、政府が出せる仕組みになっている。
だが今回の事故の賠償はすべて東電の責任で支払わせ、
政府が援助すべきではない。
「事故があっても政府が守ってくれる」というのは
もう通用しないことを示したほうがいい。

原発は、事故や災害が起きれば多数基が一度にダウンし、
運転再開までに時間がかかるので、電力供給不安定を招きやすい。
その可能性は前々から指摘されてきたのに、
原発を作り続けてきた責任は重大だ。
このまま慢性的な電力不足が首都圏で続けば、
日本経済への影響は計り知れない。
天災によるやむをえない面はあるが、
本質的にはエネルギー政策の誤りであり、
電力会社の誤りでもある。


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とはいえ、こんなタイトルの本、監修していたら、
やっぱりマッ●ウだったんだって、言いたくなるではないか!
by zhimuqing | 2011-03-26 01:28 | Make Me Wanna Holler | Comments(0)
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