厭なニュースが延々と続く今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?
こういう時はやはり本物の音楽に限ります。
個人的にやりきれなくて、かなり落ち込むことがあったのだが、
アレサを大音量で聴くと、凄く気持ちが楽になりましたよ。
音楽の持つ力というのは、、特にそれが本物だった場合は
やはり大変素晴らしいものですね。
アッティカ・ロックの処女作『黒き水のうねり』
初めて知った作家だが、文庫本の帯の推薦がいきなり目に飛び込んで来る。
私がこよなく愛するペレケーノスになんとエルロイまで付けて来るとは!
ジェイムズ・エルロイ「最上級のデビュー作!」
ジョージ・ペレケーノス「スタイリッシュで力強い!」
アメリカ作家の個人的なツートップによる殺し文句に
即座に腰砕けとなる私。
ブラックパンサー世代の元活動家の売れない弱小弁護士が主人公、
時代は80年代初頭の設定。
市民活動に挫折して頭を低くしている主人公ジェイが
ふとしたきっかけで白人女性を助けた事で、陰謀に巻き込まれるのだが、
その過程で家族や社会との絆を取り戻していく。
こうやって書いてしまうと、ありがちなストーリーに思えないでもないが、
60~70年代初頭のアメリカ黒人社会の丁寧な描写と相まって、
なかなかの説得力ですね。
ただし文中に公民権運動やパンサー党の人名が随所に出てくるので、
その辺の基礎知識があったほうがより楽しめる?かな。
黒人家庭における父性の欠如はこの主人公の言動に大きく影響を与えているのだが、
特に先日読んだアイスバーグ・スリムやネルソン・ジョージでも
多くのページが割かれていたので、非常に読んだタイミングも良かったかな。
アメリカ社会のマッチョイズムとその裏返しのこの問題、
良く考えると、ペレケーノスの諸作やスペンサー・シリーズにも
通底して流れるテーマでもありますね。
ただし、この作品で特に印象に残るのは母性が前面に出てくる場面。
前半で出て来る陪審員の黒人女性がまずなんといっても鮮烈だけど、
これは作者の考えるところの「母性」を体現したものなので、特別。
むしろジェイの奥方、臨月に程近いバーナディンとのやり取りの中で
感情がもつれて、ほぐれていき、ジェイを包み込む流れは
女性だから書ける、とまでは断言できないけど、
なかなか他では味わい難い温かみを感じてグッとくる。
(ここ数日の私の精神状態も関係しているかもしれないが)
もちろん純粋なミステリー(謎解き)として読んでも
悪くない作品ですけど、若干謎の部分を担う白人女性が弱い感じもあるけど、
作者もそこに力点を置いていない(と思う)というか、
この作品の味わい深い部分はそこではないので、全く問題ない。
エルロイ・マニアにはどうか分からないけど、
ペレケーノス好きには間違いなくイケる逸品でしょう。
ラスト・シーンへの展開もなかなか良いし、
バイユーに落ちた白人女性を助ける黒人という始まりからして
相当いかしています。
ところで、主人公のジェイなのだけど、
公民権運動時代に若者だっただけあって、
サザン・ソウルが好きだという設定。
サム・クック、オーティスだけならともかく、
ピケットにウーマックまで出て来るところが良い。
(バーナディンはキャメオやギャップバンドが好き!)
オーティスで一番好きなアルバムをかける、というシーンで、
オーティスの1stの「Pain in my heart」を書けるところなんで、
おもわず、ホウ!と感心させられましたね。
1stをあえてチョイスするとは、素晴らしいセンス。
タダならないものを感じます。
(良くある翻訳時の人名表記ミスもない。→ 翻訳も良い仕事ぶり)
アッティカ・ロックさん、現在2作目を執筆中ということで、
これはもう楽しみにするしかないのだけど、
早川書房さん、ペレケーノスやウォルター・モズレイみたいに
(売れないからって)途中でシリーズ翻訳しなくなるのだけは勘弁してね。
お願いしますよ!