ハイン 地の果ての祭典

火曜日にロンマクと大阪で合流。レコード屋や本屋、楽器屋に行くという、いつもの一人の時の行動と寸分たがわぬ、いや楽器屋には行けてないですね、閉店時間が早いから。ま、それはさておき、我々のとる行動は基本的にはほとんど同じものとなるわけです。ウン十年変わっていない流れでもありますが。レコ屋でウルスラ・ヒラリア・セリア・デ・ラ・カリダド・クルス・アルフォンソ・デ・ラ・サンティスィマ・トリニダドこと、セリア・クルースのボンバの編集盤を格安で見つけるという幸運にも恵まれながら、ロンマクお勧めの一冊、山極 壽一と鷲田 清一の共著「都市と野生の思考」を探しに行ったのですが、そこで思いがけない一冊を発見。即、手に取り、レジに直行、夢中で読み返すこと数回、今日に至ります。

ハイン 地の果ての祭典
南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死
著:アン・チャップマン 訳:大川豪司


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昨年出版されていたんですね。気が付きませんでした。セルクナム族のことを知ったのは多分10年くらい前だったと思うのですが、なんといっても、強烈な印象に残るルックスが印象に残るだけで、あとは絶滅してしまった先住民ということをなんとなく知っただけで、その後記憶のかなたに消えていたのですね。というか、ヤーガン族として紹介されていた気がします。

成人の儀式ハインを中心にセルクナム族とハウシュ族の風習や信仰、いや宇宙ですね、を記したこの著書、作者の案・チャップマンは60年代に僅かに生き残っていた人々からの聞き取り、そして1910~20年代にドイツ人神父グシンデの残した記録(貴重な写真多数を含む)を参照しながら、ずっと前に失われてしまったその宇宙について紐解いていく。

チャップマンの筆さばきは実に巧み。一冊を通して、全体に流れるこの民族への尊重の念、彼らが持つ(持っていた)宇宙感への感嘆がひしひしと伝わってきますが、それだけでなく、儀式の背景と建前に対する考察の進め方も滑らかでぐいぐいと引き込まれます。過酷な自然の中で自在に広がっていったセルクナムやハウシュの想像力と信仰をベースとしたハインの様子が実に活き活きと描かれていて、記録としてだけでなく読み物としても一級品。これは僅かな生き残りであったアンヘラやフェデリコとの心のこもった交流、正確に言うと友情、がなせた業でしょう。
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もちろんグシンデ神父による1923年のハインの貴重すぎる膨大な記録があってのもの。この写真のインパクトはあまりにも強烈ですからね。時代柄カラーでないのが残念ではありますが、それを望むというのは贅沢というものでしょう。この写真を含めた記録の引用がスムーズ。グシンデとセルクナムのやり取り、特にテネネスクとの最後の会話、もヴィヴィッドで、その後の展開を考えると、静かに胸を打つものがあります。
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忠実に彩色すると、こうなるそうですね。凄すぎる!
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どうしてもその後失われてしまう彼らの宇宙に思いを馳せて喪失感を感じてしまうわけですが、一方でチャップマンによるアンヘラ・ロイヒやフェデリコ・エチュライネへの聞き取りには当然多少の喪失感はありますが、悲壮感というものはあまり感じられない。チャップマンも重苦しい気持ちになるとは書いてはいるもの、例えば儀式に関する表現にはユーモアが溢れていて、それはアンヘラやフェデリコ、そしてチャップマンの個としての性格なのか、それとも厳しい自然環境から来た諦念によるものかは分かりませんが、北方に住むインディオへ向けて歌うロラ・キエプヒャの詠唱で冒頭と最後を挟んだチャップマンの思いとしてはどうだったのでしょう。
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それにしても人類史の本当に貴重な記録。チャップマンはロラの協力を得てハインの時の詠唱もしっかり記録して、CDと配信で今では簡単に聴くことが出来るようになっているそう。チャップマン、そしてグシンデ神父やルーカス・ブリッジスの業績はどんなに讃えても讃えすぎることはないでしょう。失って初めて気が付く重要性、身近なところではアイヌの文化もまさしくそうだと思いますが、やはりこういう部分にしっかりお金を使ってこその文化水準だと思うのですが、どうでしょう?
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自分の体にもタリを描きたくなってしまうのは仕方がありませんね。流石に下半身は出す度胸はありませんが。


追伸:これを書いてリビングに戻ると、ヨメがあんたが見てた本の人、テレビで紹介されてる!と。ふしぎ発見でまさかのシンクロ。うーん、セルクナムの導きか!
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by zhimuqing | 2018-01-20 20:28 | La Sombra Del Viento | Comments(0)
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