満州国演技

船戸与一「満州国演技」を読了。怒涛の9巻。船戸与一の終着点。船戸与一が文字に刻み込んできた世界最後にたどり着いた境地に圧倒されました。
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私が熱心に船戸与一を読んでいたのは学生の頃。「砂のクロニクル」がちょうど文庫化されたタイミングで、それまで読んだことがない世界に大興奮し、古本屋でひたすらそれ以前の文庫本を漁って読み耽る日々。学業をおろそかにして読書に没頭する私に対して、叱責するどころか出版されたばかりの「蝦夷地別件」をプレゼントしてくれた当時の担当教官K先生はやはり素晴らしい度量の持ち主だったと今でも感謝しています。

それはさておき「満州国演技」。今年の夏にNHKで放送されたドキュメンタリー、インパール作戦や731部隊、樺太地上戦を取り上げて話題になったので観た人も多いと思いますが、あの映像でいやというほど見せられる無様な状況やそこに至るまでの軍や官僚そして一般大衆の空気や言動が腑に落ちるような、そういう気分にさせてくれる作品です、「満州国演技」。NHKのドキュメンタリーはたしか近々再放送されるはず(されたのかな?)なので、見逃した方は是非とも。(大きな声では言えませんが、ネットにも転がっています)

戦争のような極限状況では人は簡単に理性を失う、とよく言われますが、本の中で書かれているのは、別段極限状況に陥らなくても人間、簡単に流されてしまうということ、これを船戸与一は残された命の中でしっかりと描きたかったのではないかと。官僚、関東軍、一兵卒から軍の上層部、政治家、会社員、一般人、それぞれの立場で一見もっともらしく、その実とんでもなく欺瞞に満ちた言動。世間(これも実体がなく漠然としたもの)に徐々に流されていく様子。明治維新以降、綿々と重ねられていった思惑や事件が最終的に破滅に繋がっていくその流れを船戸与一は冷徹に描いていくのですが、これは返す刀で昨今の日本(だけでもないと思いますが)の現状に警鐘を鳴らしていることもまた明らか。またお前らはしたり顔でそのまま押し流されていっていいのか?という。

本編のラストに押し迫ったあたりで生身の痛みが強烈に表出してきます。私見では、これは船戸与一があえて使わないようにしていた禁じ手の一種だと思うのですね。常に弱者の側に立って物語を紡いできた船戸与一ですが、踏みにじまれた生身の人の生身の痛みを表現するのはあえて避けていたように思うのですね。その船戸与一がここでどうしても描かざるを得なかったというのも、後に残される私達への強烈な遺言かと。

それにしても、今思えば「蝦夷地別件」を書いた時点で船戸与一の視界には「満州国演技」が入っていたに違いないことが分かって、その視野の広さと遠さに驚きます。私は後期船戸与一の熱心な読者ではありませんでしたが、この作品を読んだ目で後期のアジアを舞台にした作品を読み直すと、新たな発見がありそうだと思います。まだ読んでいない作品は6作品。楽しみです。

宗主国のトップの娘を接待するためにレストランの前で出待ちする従属国某国の高官。
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この後、57億を献上。泣けせる!いや、泣けてくるぜ!
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by zhimuqing | 2017-11-12 23:23 | Make Me Wanna Holler | Comments(0)
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