貴方だけを愛して

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女王と称されている割に正当に評価されていない気もするアレサ。
圧倒的なその歌唱力、特に有り余るパワーが敬遠されるのか、
いわくヒステリックだとか、味わいにかけるだとか、
中にはエリートすぎて気持ちが入らないといった物言いまで。
逆に、アレサ=凄いの図式で片づけてしまわれることも。
ブルース・ブラザーズのおかみさんだよね、と言うのは、
まあ、それはそれでいいかな、と思ったりもしますけど。

もちろん一気にダイナミックに舞い上がるあの瞬間の高揚感は
これは素晴らしいとしか言いようがないもので、
地球遺産に認定されてしかるべきものだと思いますが、
この人の最大の魅力は声が消える直後に残る得も言われぬあの響き。
あの余韻から産まれる説得力ですよね。

軽く歌った時にどれほどの説得力を持つことが出来るかが
超一流の歌手と一流と二流とを分ける部分だとすると、
アレサの場合、一声軽く発した後の余白に込められた情報量の多さ、
或いは聴き手にそのように感じさせる響きが圧倒的で、
他の追随を許さないところですね。
あとは、旋律を低く潜りこませた時の味わい深さも
また特別というか、別格の存在であると思わせますね。

更には、問答無用のリズム感。
絶妙に音節を延ばしたり、逆にたたみ込んでみせたり、
語尾をブツブツと切ってみたり。
メロだけでなくバックの音に対するアプローチも実に様々。
そこにぶち込んでくるのが、超絶技巧のスクリーム。
完璧なテクニックを誇るのだけど、そこに計算を感じさせず、
ナチュラルに全身の細胞から溢れ出る感じ。
瑞々しさと言い替えてもいいですが、
その正の感情も負の感情も飾らずに露わにする感じが
溢れ出るブルージーな響きとなって私達聴き手の感情を揺さぶるわけで、
やはりこれは女王として崇め奉られて当然だな、と。
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思うに、この緩急自在な歌は単なる歌というよりも
教会での説教、プリーチとしての歌なんでしょうね。
幼少からの環境の中でもともと持っていた天与の才能が
磨き上げられて自然に身についたスタイル。
計算もされていないだけに、ある意味出たとこ勝負。
天才だけに常に軽くアヴェレージは超えてくるけど、
降りてくる精霊をいつでも自在にコントロールできるわけでもない。
当然、高いレベルではあるけど、出来不出来があるのも
ある意味仕方がないのかもしれませんね。

そういう意味で、やはり最高傑作は『貴方だけを愛して』かな、と。
もう完璧な曲しか入っていない、神がかった奇跡のアルバムですね。
ソウルの世界には精霊が天から舞い降りてきている名盤がありますが、
ここでのアレサは敷き詰められた精霊を自在に操っているかのよう。
電話帳を読むだけで人を感動させられると評されたのはピアフだが、
アレサの場合は精霊がそれぞれの胸の内に降りてくるといえば
しっくりくるのかな。
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シングル+同時録音の寄せ集めが常だったこの時代なのに、
奇跡的に冒頭からラストに至るまで見事な流れが出来ていて、
聴き手はアレサの歌の思うままに操られるまま。
よく聴くと、声の調子が曲ごとに微妙に異なるのですが、
それもまた味わいが増すという、奇跡のアルバム。

“Respect”(R.S.P.E.C.T.と書きたい)で快調に始まり、
“Drown in My Own Tears”でぐっと心を掴まれ、
必殺の“I Never”でズドーンと落とされる、ここまでが第1幕。
オープニングの流れでこれほどまで見事なアルバムは
中々思いつけません。

“Soul Serenade”で癒され、“Don’t Let Me”で和んで
“Baby Baby Baby”で高みまで一気に舞い上がり、
“Dr. Feelgood”でまたズドーンと落とされるまでが第二幕。
“Good Times”で快調に始まり、“Do Right Woman”で涙を出し切り、
“Change is gonna come”で終わる。
完璧な流れとしか言いようがない。

レコードではA面ラストがBabyで、B面頭にDr. Feelgoodですが、
CDではアレサ史上屈指のこの2曲が連続するという展開。
Babyで胸の奥底をかきむしられ、メタメタになったところで
アレサの傑作群の中でも最高傑作との呼び声が高い
最もブルージーなDr. Feelgoodでガツンと落とす展開。
この展開だけはCDで聴いたほうが素晴らしいと思いますね。

この大名盤をはじめて聴いたのは高校2年生の時だが、
高校生にも理解できるほど圧倒的なブルースで
私も繰り返し聴いてはそのブルースの海に溺れていたのですね。
歌に呼応するアレサのピアノがまたカッコいい。

そうそう、このアルバムはアレサのピアノの素晴らしさが
また存分に楽しめるアルバムでもありますね。
元々ピアノで呼ばれていたスープナー・オールダムが
アレサの演奏を聴いて、こいつは本物だ。
俺はエレピとオルガンに回ると自分から言い出したのは有名な話。
基本的にゴスペル丸出しのフレージングが多いのですが、
ブルースとゴスペルの間を自由に動いて曲の要所を的確に押さえる。
当然だけど、自身の歌との呼応もばっちり。
いつか歌とピアノだけを抜き出した音を聴いてみたいものです。

演奏の過不足の無さ、歌とのバランスも最高です。
当時のアレサのライブの映像、結構ネットにあがっていますが、
ここでの演奏に比べると、圧倒的にダサい、かっこわるい。
如何にここでの演奏が完璧だったか!ということですね。
キング・カーティスのバンドでの演奏は流石に良かったですが、
ここでの迎えた演奏の方が味わいや深みにおいては上かな、と。

アーマとキャロリンの姉妹によるコーラスのリードとの呼応の素晴らしさ、
チップス・モーマンのペケペケした不良っぽいリードも最高!
最近の私のお気に入りはジーン・クリスマンのドラム。
歌やピアノとの絡みは本当に理想的な姿ですね。
ドラムは長らくロジャー・ホーキンスとされていたけど、
ジーン・クリスマンとの説が強くなっているそう。
クリスマンといえば、ゴールドワックスでも叩いていますね。
エルヴィスとのセッションで有名な人ですが、
音楽的にはソウル界での功績の方が遥かに上かな、と。

ということで、興奮して長々語ってしまいましたが、
聴いたほうが早いですよね。
はっきり言って無人島に持って行く1枚だったら、このアルバム。
ああ、素晴らしい。やはり私のフェイバリット。
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by zhimuqing | 2016-03-05 23:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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