女王ですからね

アレサ・フランクリンの評伝「リスペクト」読了。
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著者はソウル界の評伝を書かせたら第一人者のデイヴィッド・リッツ。
得意のゴーストライターものでもアレサの自伝を出版していますが、
それに続くアレサ第2弾というか、本人曰く、別バージョン。
この「リスぺクト」の中で描かれているように、
天才ゆえにアレサは色々とややこしい人物。
先に出た自伝が本人の理想と思い込みによって事実とかけ離れているので、
別バージョンとして、自分なりにまとめた評伝を出してみたということらしい。
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女王による事前チェックがされていないこの本は
本人の我儘に振り回される周りの姿があけすけに書かれています。
当然アレサ本人は面白くなかったらしく、
出版後に抗議したりしていたようですが、
繊細な天才ゆえの我儘というか、人間味が逆にあふれるようで、
実は読後感はそんなに悪くはないです。
1ファンとしてはやはりこの本を出版してもらってよかったかな、と。
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アレサの家族や多彩な著名人のコメントから組み立てる
女王アレサの素顔に近い姿。
はっきり言って随分ややこしいというか厄介な姿ではありますが、
困惑されられた思い出を包み込むアレサへの愛と敬愛の情が
どのコメントにも感じられるのがいいですね。
圧倒的な才能に対する敬意の念も当然ながら溢れている。
なによりもリッツのアレサに対する愛情の深さ。
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それにしてもリッツの顔の広さというか、
ここで出てくるメンツの豪華さはすごいですね。
例えばジェリー・ウェクスラーとかアリフ・マーディン、
ナラダ・マイケル・ウォルデン、ルーサーなんかはよく分かるけど、
BB、ブランド、スモーキー、デニス・エドワーズ、ジョニー・テイラー、
更にはレイ・チャールズにマーヴィン・ゲイまで出てくるというのは、
このあたりのビッグネームにがっちりと食い込んでいたリッツだから
出来た部分だな、と。

天賦の才能とそれに反比例するかのような我儘で内気な姿。
周りにいた人の苦労話もなかなかもの凄いけど、
評伝としては多分こういうタイプのほうが読み応えがあるのも事実。
例えばカーティス・メイフィールドやスモーキー・ロビンソン、
彼らはアレサと並ぶ、見方によってはアレサをも凌ぐ偉人ですし、
その評伝は間違いなく面白いだろうけど、
この本よりも波乱万丈な展開になるとは思えない。
そういう意味ではこのリッツが手掛けた人はレイ・チャールズにマーヴィン、
そしてこのアレサ、更にはエタ・ジェイムズ。
こうやって並べてみると超面倒くさそう大物な人を選んでいて、
火中に栗を拾うというか、虎穴になんとかというか、やはりすごい人ですね。

個人的にはアーマ、セシル、キャロリンの姉妹(兄妹)のコメントが
たっぷり入っているのが嬉しいところ。
身の回りにいた家族の飾らないコメントが実に読みごたえがある。
特にキャロリンは88年に亡くなっているので貴重かと。
そうそう、本を作るまでにかなりの関係者が亡くなっていて、
前半部分に生き生きとコメントした人達が少しずつ出てこなくなるというのが
この本の貴重でもあり、寂しい部分でもあります。
(寂しい気持ちの方がずっと強いですが)

リッツの音楽に対する評価は私(だけではないです、当然)と近くて、
そういう部分では安心して読むことが出来るのも高ポイント。
貴方だけを愛して、スパークル、フィルモアのライブ、至上の愛、
この辺の話になると筆への力が入っているのがよく分かるのが面白い。
アレサ自作の名曲(と駄曲)について、しっかり触れられているし、
アレサの隠れた魅力のピアノについてもページ数が割かれているのも嬉しい。
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コロンビア時代の評価が低すぎる気もしますけどね。
アリスタ時代については若いころの同時代だったんで、
私は結構思い入れがある方なのですが、まあ今から見ると
もう一つだというのは、確かにその通り。

色々と知らない逸話があって、これはやっぱり面白い。
レットイットビーはもともとアレサ用に書き送られてきたものだったが、
マザーメアリーの一節がバプテスト的にどうか?迷ったため、
ビートルズよりも先に録音したものの発表は後になったことなんか、
完全に初耳ですしね。

その他にも、カーティスとのスパークルは当初キャロリンが歌う予定だったのを
アレサが横取りして、二人が大げんかをしたとか、
カーティスがアレサを丸々1枚プロデュースしたと聞いて
マーヴィンが嫉妬した話とか、
サム・クックやデニス・エドワーズの仲は知ってましたが、
著名になる前にマーヴ・ジョンソンと付き合っていたとか、
恋仲のデニス・エドワーズの部屋を直撃したところ、
女性が部屋にいたが構わず自分の部屋のようにふるまったとか。
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ロナルドと元彼デニスとともに。
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サム・クックとの話は結構有名ですよね。

あとは本人としては触れられたくなかったところだと思うけど、
実力派の女性歌手に対する対抗意識が面白いですね。
ソロモン・バークやジョー・テックスに対して
JBも色々嫌がらせ的なことをやったのは有名な話ですが、
アレサの場合、対象がグラディスやホイットニー等の王道系だけでなく、
ダイアナ・ロス、ロバータ・フラック、アニタ・ベイカー等、
路線が全くかぶらないシンガーに対してもライバル視するのが面白い。
当事者としてはたまらなかっただろうけど、読者としては相当楽しめます。
アリスタでのゴスペルライブ盤で当日自分よりも調子が良かった
メイヴィス・ステイプルスの声をミックスで小さくしてしまう話とかね。
なぜかパティ・ラベルとかシャカ・カーンが出てこないのが残念ですが。
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この若さ溢れるホイットニーに対抗しようとするのが
女王アレサならでは、ですよね。
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ダニー・ハザウェイに対するアレサの思いにはグッとくる。
もちろんカーティスやサム・クックに対する思いも。
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個人的には興奮したのはモータウン入りという
選択肢があったというところ。
全盛期のスモーキーがプロデュースしていたら、
それはそれで歴史が変わっていたと思うのだ。
ラフィンの声もうまくプロデュース出来たスモーキーだからね。

要所要所で出てくるエタ・ジェイムズやカーメン・マクレエ、
シャーリー・ホーンあたりのコメントは本当に効いていて、
これで全体が引き締めていますね。
カーメン・マクレエのインタビューを他の話を含めて
まとめてほしいぐらい。
そうそう、エタ・ジェイムズやルース・ブラウンなんかを尊敬していたという話も
ちらっと出てきますね。
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あとはあれですね。
アレサの飛行機嫌いの話は有名ですが、本当にダメなんですね。
やはり日本で座して待っていてはだめだということがよく分かりました。
アメリカに行って観るにしても、ロッキー山脈よりも東でないと
ダメだということもよく分かりました。
仮にチケット押さえても本人ドタキャンで観れない可能性があることも。
でも、いくら全盛期の姿ではないとはいえ、
本物は一度生で見てみたいのだけど、なかなかハードルが高そうだ。
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ちなみに私がアレサ関係でずっと一番気になっているのは、
アレサの最大のヒット作にしてゴスペルの大傑作「至上の愛」の映像。
数年前から映像が公開されると定期的に話題になるも
女王の意向でなかなか公開されないのが残念極まりない。
本の中でもアラン・エリオットがとても苦労している話が語られています。
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一刻も早くアレサが公開を許可することを望みたいのだけど、
本の中で描かれる女王の姿からはなかなか難しいそうだということも
またよく分かる。
でもね、全盛期のアレサに父C.L.にジェイムズ・クリーブランド、
デュプリー、レイニー、パーディーにパンチョ・モラレス。
これを公開せずに一体何を公開するというのだ!
一刻も早く公開してほしいものです、はい。
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娘の額の汗を拭く父、CL

アトランティック後期のアルバムが再発されない理由は
本の中に描かれていませんが、噂だとアレサ本人の意向ということで、
これもなかなか再発なさそうですね。
その辺も含め、アレサ関係はとりあえず世界遺産なんだから、
きちんとカタログ化して欲しいんですけどねぇ。
ま、女王様だから仕方ないのかな。
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by zhimuqing | 2016-03-01 00:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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