一部の熱心なアフリカ音楽愛好者の間で話題になっていた
ハイライフの王様、E.T.メンサーの全盛期の音を集めた再発4枚組。
恥ずかしながら私はメンサーをしっかりと聴くのはこれが初めて。
50年代の黄金時代の音を中心に集めたこの編集盤、
いやぁ、これは気持ち良い。素晴らしい。
ブックレット(大変充実していて、これまた素晴らしい)をさらっと読むと、
ジャズの影響をいかに受けていたかということと合わせて、
バンドのドラマーのガイ・ウォーレンがイギリスからカリブ音楽を持ち帰り、
その影響を受けた等とも書いてあり、私のツボをいちいち突いてきますね。
実際アフリカものにそんなに詳しくない私がメンサーの音を聴くと、
これはもう完全にラテン音楽の変種としか思えないですしね。
特にカリプソの影響は強いようですが、マンボやルンバの影もかなり濃く、
そこが旨みを増している大きな要素なのだと思います。
ソウルやロック以前の世界ではやはりラテンこそが世界最先端だったわけで、
ラテンの影響というのは今では信じられないほどの範囲だったのだなとも
考えさせられますね。
もっともラテン音楽に含まれる成分、特に旨みに関する成分は
本来西アフリカ由来のものが多いわけですし、
アフリカ音楽に関して言うと影響を受けたのは間違いないですが、
ある意味成長した子孫が元の故郷に戻ってきたと考えるほうが
自然な気分というものだろうと考えてみたりもします。
それにしても、西アフリカとカリブを中心としたアメリカ大陸との間の
相互に作用を与え続けるグルグルとした渦巻のような関係には
本当に興味が尽きませんね。
話が大幅に脱線していますが、メンサーの音の素晴らしさは
これはもう聴いてもらうしかないわけですね。
草原の風の香りとでも言いましょうか、軽やかで優美な音は
やはりアフリカ音楽の最大の魅力の一つかな、と。
ヒラリヒラリと翻す、その軽やかな身のこなしの中で
音の濃淡が自在に変化して、耳元で弾けるというか、
そういう一見シンプルなのに、実は複雑な味わいに満ちているところが
実に気持ちの良いところですね。もうたまりません。
ブックレットにあるように、ジャズやラテンに加え、地元の様々な音楽が
自然に交差する環境と時代の中でこそ、産み出される味わいなのでしょう。
ギターのフレーズなんかはまだはっきりとした形にはなっていないものの、
この後コンゴで成熟する音楽、もっと言うと親指ピアノとの関連性も感じます。
こういったアフリカ諸国間で相互に与えた(与える)影響というものも
やはり相当に好奇心を刺激する内容なのですが、
私の知識と耳ではまだそこまでは追いつけない。
4枚組全69曲を完全に消化しきるのはまだ先になりそうですが、
これは長く手元で楽しめそうなブツ。いい買い物をしました。
アフリカ音楽は熱心なディガーによってかなりマニアックなものまで
掘り起こされていますが、レアグルーヴとしての需要がメインなので
ネタとしての有効性の高い70年代のものが多く、
レア(最近ではオブスキュアなんて言葉も流行っていますね)なものが
どうしても話題になりがち。
レアものの発掘はそれはそれでありがたいのですが、
こういう王道というか、ど真ん中な音楽はきっちりと聴いておいたほうが
1リスナーとして幸せなんではなかろうか?と自省してみたりも。
とはいえ、このメンサー全盛期の音に身を委ねていると
硬い話はどうでもいいんじゃないか?という気分にもなるのですけどね。
都内某店でこの10インチは買い取り価格30000円!だったそう。
うーむ。誰が買うんでしょう?