部屋を掃除している時に見つけた?トニ・モリスンの「スーラ」、
久しぶりに読み返しましたよ。やはりものすごく面白い!
モリスンの小説は重い場面でも瑞々しく綴られる文体とは裏腹に
前世紀初頭の米国でのアフロアメリカンの置かれた厳しい状況が前提とされており、
本国での圧倒的な知名度と売り上げに比べ、もう一つ日本での盛り上がりに欠けるのも
よく理解できる気がします。
ただ、この人の小説は単、昔々黒人は厳しい苦難の道を歩んできたのです!という
そういう性質のものではないことは、やはりはっきりと認識しておいたほうが
良いように思うのですね。
あからさまな性愛表現、偽悪的な嘲笑に代表される
いわゆるWASP的な善悪や道徳感から外れたもの、
世間の良識や常識から見ると眉をひそめてしまうようなもの、
心の奥底に澱のように沈殿している、しかし決して風化することが無い何かを
決して裕福でなく、不当に抑圧された人々の生活を通して、
様々な角度から光を当て浮き彫りに、或いは影絵のように表現する文学なのですね。
アンジェラ・デイヴィスとトニ!
そういう意味では、四つ角で出会う悪魔まで世の中の一つとして包み込んだ
実にアフロ成分のきわめて強い文学でもあると言えますね。
深い部分でヴードゥーやカンドンブレと共振しているとも言えるのだな、と
改めて感銘を受けるのでありますね。
大人になるにつれ正反対の人生(しかし実は表裏一体ともいえる)を歩む、
二人の少女、スーラとネルの物語も、もちろん単純な愛憎劇になるはずもなく、
その周りの登場人物の言動を含め、もうひたすらじっくりと味わうしかない物語ですね。
最後の場面は何度読んでも心が震えてしまうのは私だけではないでしょう。
スーラとネルの少女時代の瑞々しい躍動感、
ヴードゥーの女王のようなスーラの祖母エヴァ、
文章だけで私も虜になりそうなスーラの母ハナの魅力、
若くして心の一部が擦り切れてしまったスーラが始めて感じる占有への欲望。
至るところに魅力的な表現に満ち溢れていて、私はただただ包まれるのみ。
詳しくは書きませんが、金と雪花石膏、ローム層のくだり、かなり痺れます。
ということで、あまりに素晴らしいトニ・モリスンの文学ですが、
個人的にじっくりかみ締めるためのものなので、無理に読めとは言いません。
ここに書いたのも個人的な備忘録ですしね。
ということで、未読のモリスン、探しに行こう!