褐色のカナリアの異名を持つジョニー・アダムズは
ニューオリンズ屈指の名シンガーと言われる人。 もう一つ決定打だと思える編集盤がなかった(知らなかった)ことや 代表曲にカントリーの曲が多いこともあり、 ファンキー(この地の場合フォンキー、ですね)な風味は 薄いのではないか?という勝手な思い込みもあり、 これまで手を伸ばしていなかったのですが、 自分の認識の甘さを痛感させられる羽目になりました。 先日、英ACEから数週間遅れて発売された編集盤ですが、 アダムズの最初期のシングル11枚に未発表2曲を集めた全24曲。 以前ラウンダーから出ていたものより10曲多い決定版ですね。 ジョー・ルフィーノのレーベル、リック/ロンですからね、 制作の責任者はマック・レベナック、つまり10代のドクター・ジョン! 20歳前の小僧に社長兼A&Rの肩書を与えるルフィーノの度量については ドクター・ジョンはその自伝で、頭がおかしいと思ったと書いているが いやあ流石の慧眼だし、その期待に答えた若き日のレベナックさんも凄すぎる。 バッキングを務めるのは当時のニューオリンズの名手達で、 ライナーにはハロルド・バティステを中心にしたA.F.O.のコンボとありますが、 以後のドクター・ジョンとの濃厚な繋がりを考えると、その通りかな。 地方検事ジム・ギャリソンの強引な風紀取締りによってボロボロになる前、 50年代後半から60年代初頭のニューオリンズは 時代の最先端の音を作り出していたことが有名ですが、 そのことを改めて再認識させる、艶々で芳醇な音。 63年のアルバムなんで、ドクターはまだ西海岸に未着です! ハロルド・バティステ(p, sax)、メルヴィン・ラスティ(tp)、レッド・テイラー(sax)、 チャック・ベイディ(b)、そしてジョン・ブードロー(ds)。 ドクターが絶賛するロイ・モントレルはここにはいませんね。 ちなみにバティステ達はこの後NOに見切りをつけてLAに移住して、 サム・クックのレコードでのバッキングなんかを担当するのですが、 添加物過多のきらいがある当時のクックのバックの音よりも ここでのアダムズのバックの方がずっと濃厚かつナチュラルでソウルフル。 当時のサム・クックがこの音で録音していれば!とも妄想も拡がりますね。 ちなみにバティステに誘われてクックのレコーディングに行く直前に クスリやその他色々でドクターがムショに入って、 オツトメが終わって出て来た時にはクックは亡くなっていた話は 有名なエピソードですが、これまた残念極まりない! 話がドクター・ジョンの話ばかりになってしまいましたが、 バックの音も凄いが、それに増して凄いのがアダムズの歌いっぷり。 声自体の質がまず極上としか言いようがない。 アダムズを持ち駒にしていることをルフィーノは誇りに思っていたそうですが、 それも頷けますね。 豊潤とか芳醇とかコクという言葉が最もふさわしい旨みに満ち溢れた声、 その上、声量もばっちり。 となると、大陸的というか大味な朗々とした歌唱になりそうなものだが、 抜群のコントロール、絶妙な技を効かせて、スリリングな部分もある。 力感に溢れているけど、力任せではない、大人の歌唱。 32年の生れだから、この頃27~30歳だが、そうとは思わせない いい意味で老成した、素晴らしい歌ですね。 男前というかダンディな歌い口で、カッコいいオジサンを好む 私の職場の同僚、Y女史もメロメロになりそうだ。 ルフィーノの急逝とそれに伴うレーベルの閉鎖、 そしてギャリソンの強引な取り締まりによるNOのシーンの衰退もあり、 その後ドクター・ジョンやAFO軍団はロスへ移動し、 アダムズもSSSレーベルに落ち着くまで、微細なレーベルを転々する訳ですが、 歴史もイフは無いにしても、ルフィーノが健在でギャリソンの取り締まりがなく、 アダムズがそのままリック/ロンで録音し続けていたら、 ソウルやファンクの歴史が変わっていたと思うのですけどね。 64年の2曲に関してはエディー・ボーが絡んでいて、 よりフォンキーな持ち味が引き出されているだけにね。 あの豊かな声でトゥーサンとかミーターズとか勿論ドクターとか、 その辺の音をバックにしっかり歌いこむことが出来ていれば、とか そういうことをいろいろ考えるとキリが無いわけですが、 まずはそれよりもACEから2枚出ているリック/ロンの音源集や 64年以降のアダムズをしっかり聴いてみようと思うわけですね。 その辺りへのフォローも引き続き英ACEにお願いしないとね! まずは必携かな。
by zhimuqing
| 2015-03-15 00:28
| Funkentelechy
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