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あとはどれだけ吸い出せるかだ

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スライ・ストーンがマネージャーのデイヴィッド・キャプラリックと共に
設立したレーベルStone Flowerの作品集がオフィシャルで遂に登場。
これは本当に待望の1枚(LPは2枚だが)と言ってよいでしょう。
プロダクションとしてのStone Flowerの作品も含まれていて、
こういうものは本当にありがたいものですね。
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エピックに対して秘密裏に進められていたらしい謎のレーベル、
配給はアトランティックがやるようになっていたようで、
ライナーにはジェリー・ウェクスラーとの写真も。
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スライとウェクスラーが一緒に写っている写真、初めて見た!

全5枚のシングルに未発表曲8曲加えた18曲というだけでも
血がたぎって鼻血が出るというものですが、
スライへのインタビューを含むブックレットがまた大充実。
何と言っても活動期間が1969~1970年ですからね。
大傑作≪Stand≫を発表、ウッドストックで世界の度肝を抜いた後、
シングル“Thank You”で以降の音楽の構造を塗り替えたり、
畢生の金字塔≪暴動≫の録音に入っている時期の音ですからねぇ。
入手して結構時間は経っているのですが、柏手を打つこと10日間、
ようやく心が落ち着いたところなのであります。
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収録アーティストはヴェット・ストーンを含むリトル・シスター、
スライに昔ブルース・ハープを教えたらしい旧友ジョン・ヒックス、
そしてローカルバンドSoul Rascalsを仕立て直した6ixの3組に加え、
スライのソロ名義の曲が加わるわけですが、
リトル・シスターの歌や6ixの演奏も悪くない(というより良い)ですが、
やはりここはStandと暴動の間を繋ぐミッシング・リンクとしての
スライの音の変遷を見ていくのが一番の醍醐味ですよね。
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やはりこの間のリズム・キングとの出会い、ここがデカイのでしょうね。
ビッグでファットなバンド・サウンドを極めたスライが
自身の音楽をよりパーソナルな方向に持って行く大きなきっかけに
なったことは間違いないでしょう。
頭の中でずっと鳴っていたであろう、ヒョコヒョコ飛び跳ねるような
変幻自在のフットワークを魅せる音がここで一気に開花していますね。
スライ自身の手になるのであろうキーボードやギター、
そして低音や最高音をバスっと抜いたあの独特の音色のベースが
たっぷり聴けるだけで、≪暴動≫を人生の音楽ベスト5(ベスト3?)として
崇める私としては、大変ありがたいものですね。
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リトル・シスターはスライの妹ヴェットを含む3人組だが、
実力も十分、ルックスもキュート!
未発表の蔵出し、バンドバージョン“Somebody’s Watching You”は
あの名曲のカバー、しかも演奏はファミリー・ストーン!なんだけど、
濃厚な演奏に負けない溌剌とした歌が魅力的で
この後スライがボロボロになっていくので仕方ないとはいえ、
フェイドアウトしてしまったのが勿体ないですね。
ルックスもキュートだし。
ちなみにバンドのダイナミズムを減らしたスライ独演演奏版が
2枚目のシングルだが、先の演奏を聴くとやや弱く感じるかも。
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アルバムの冒頭を飾る“You’re The One”は1枚目のシングル。
70年にひっそりと発表されたシングルですが、
時代の5年は軽く先を行ったカッチョ良さ。
ライナーによると、キーボードにビリー・プレストンが参加していて、
ホーンはシンシアとジェリーだということですが、
リズムの押しの強さから言ってファミリー・ストーン丸々のように
思えるけど、どうでしょう?
少なくともベースはラリー・グレアムの様な気がするのだが。
この曲は69年録音の未発表デモバージョンも収められており、
これも油断出来ない。ドラムはなんと驚きのバディ・マイルス!
この絡みも全く予想していなかったな。
グレッグ・エリコの方がスライには合っているけど、
バディ・マイルス、本当にこの時期のキーパーソンだな。
それにしても69年というと、12月にジプシーズのリハに入る時期。
スライとジミのセッション、どこかに残っていないのか?

一方、2枚目のシングルのフリップ “Strange”は打って変わって
リズム・エースに合わせてスライがほぼ独力で楽器を重ねた曲。
ワウを効かせたギターとキーボードの不安定なフレージングは
以降のファンク界の演奏のあるべき姿を示しつつも、
誰もその神髄に近づけなかった、あの演奏ですね。
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ライナーによると、元々4人組のHeavenly Tonesというグループだったが、
結婚するためにメンバーが一人抜けて3人になったとのことで、
その抜けたのがなんとトレメイン・ホーキンス!!
これは相当びっくりしましたね。
トレメイン・ホーキンス、日本じゃ最近名前を目にしませんが、
80年代ゴスペル界の大スターではないか!
結婚した相手は名門中の名門エドウィン・ホーキンス一家のウォルター。
(既に別れたとの話もありますが)
リトル・シスターの3人の実力だって相当なものですが、
ここにトレメインが加わっていたとなると、歌とルックス含め、
70年代最強のヴォーカル・カルテットになっていたのは間違いないのでは?
しかもバックを務めるのがファミリー・ストーンだったら!と
私の妄想は膨らむ一方ですな。
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80年代のトレメイン様、う、美しい!

スライのハーモニカの師匠のジョン・ヒックスはライナーによると
かなり熱いパフォーマンスをする人だったようですが、
歌もハープも正直印象にはあまり残らないものの、
曲というか、演奏がどれも良く、これまたアルバムの目玉かと。

セプターから発売されていた“I’m Going Home” / “Home Sweet Home”、
そんなに家(故郷)に帰りたいのか!という感じだが、
バックの演奏はこれまたファミリー・ストーン!!
特に“Home…”のほうはフレディ/ラリー/エリコのリズム隊が
縦横無尽に暴れ回るのにタイトに決まっているという、
流石に世界制覇しただけのことがあると改めて感じさせる演奏。
溜息しか出ません。
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で、Stone Flowerから発売された“Life & Death”はタイトルからして
“Luv N’ Haight”的ですが、重心の定まらない浮遊感といい、
リズム・エースのリズムといい、一筆書きの様な演奏といい、
暴動の完全な露払い的なもので、私が一番期待していた音かも。
とはいえ、無名のミュージシャン、しかもスライは変名、
しかもこのダウナーな音となると、これは聴く人を選ぶというか、
まあ全く売れないだろうなという感じですが、
流石に40年以上経つと熟成して芳醇な味わいです。

6ixはスライとバディ・マイルスが集めたバンドのようだが、
“Dynamite”はファミリー・ストーンの3枚目Lifeの曲のカバーだが、
曲と演奏はオリジナルよりも良い。
バンド名義ですが、ギターやキーボードは完全にスライ印。
ただ、惜しむらくは歌の個性というか味わいが薄い。
むしろリズム・エースが叩いている?“I’m Just Like You”の歌のほうが、
80年代的な感じもあり、面白いかな。
寄せ集め感、本人達不在感がプリンス周辺っぽくもありますね。
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6ixの未発表曲は全部で4曲あり、その中では緩めのファンクの
“Trying To Make You Feel Good”がこれまた時代の先取り感があり、
カッコいいかな。
後ろで叫ぶグレアム的に吼える声もいいし、
それぞれの楽器でブレイク作る感じもある意味スライっぽいし。
重心の低いドラムはもしかしたらバディ・マイルスかもと思うけど、
もう1曲の“You Can, We Can”を聴くと、少し自信が無くなる。
バンドのドラマー、ジル・ボッティグリエリかもしれない。

この“You Can, We Can”は割と普通な感じで、アルバムの中では弱いかな。
未発表曲の残り2曲は既発曲の別バージョン。
“I’m Just Like You”のフルバンド・バージョンは
リズム・エース入りをやはり超えられず。
“Dynamite”の別バージョンもアルバムの中では弱いかな。

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で、残る4曲のスライの個人名義曲はといいますと、
これは≪暴動≫のデモといってもいいでしょう。
“Just Like A Baby”と“Africa Talks To You”。
いずれも≪暴動≫の曲のデモで、出来としては暴動バージョンが上ですが、
この時期のスライはフレーズの一つ一つが貴重なので、
私はとても嬉しいです。しゃぶりつくしたい。
“Spirit” と“Scared”は更に一筆書き的な音源ですが、
メロウな響きもあり≪Flesh≫辺りにも通じる空気も。
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ということで、長々と語りましたが、今年一番の発掘作。
万人には薦めません。というか、薦められない。
でもね、この中には真髄の中の髄液というか、そういうモロモロが
切り口からドロリと染みだしてくる凄味はあるのかな、と。
あとは聴き手がどれだけ吸いだせるか、にかかっているのではないかと。
私もどれだけ出来るか分かりませんが、限り吸い出したい。
いいもの出してくれました。ありがとう。
次は映像集、頼みますよ!色々と隠し持っとるっちゃないと?
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by zhimuqing | 2014-11-24 00:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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