クァンティックの新作であるが、これはなかなか一筋縄でいかないですね。
コンボ・バルバロやフラワリング・インフェルノを率いたバンド形式でなく、
クァンティック単体、つまりウィル・ホランドの個人名義での作品なので、
脳内に産まれた音をそのまま素に近い形で提示したシンプルな音像。
なもんで、コンボ・バルバロでの濃密で優雅な熟成された音に
魅せられている私には、初めのうちはやや物足りない気がしていたのも事実。
特にアルバム前半、LPでいうと1枚目は悪くはないのだが、
コクに欠けていて、あっさりしすぎているという印象は変わりませんね。
ただ、その感触はアルバム全体を通して聴いていると随分と変わり、
単純に曲がもう一つ好みから外れているだけかもしれないけど。
ただ、中盤以降に盛り上がります。
聴き終わった頃にはああ良かった良かったという、そういう感じかな。
前半でもバラフォンを模した音やアコーディオンをエレクトロに置き換えた試み等
目新しい要素も色々加わっているのだけど、軽やかさやエレガンスが足りない。
これまでホランドがDJで紹介していたエチオピア音楽を取り込んだ"Arada"も、
フルコとサルミエントをゲストに招いた"Descarga"もどこかグッと来ない感じ。
なかでは、ホランド自身が弾くバンジョーとアコーディオンが効いた
"You Will Return"でのアリス・ラッセルのもてなしぶりが一番かな。
ミゲル・アットウッド・ファーガスンのオーケストレーションは
期待していたほどの空気感を出してはいないけど。
ただ中盤以降、ニディア・ゴンゴーラが登場する“La Plata”からは良いですよ。
やはり歌が圧倒的に良いことと蕩けるような演奏、この2点が重要ですよね。
ゴンゴーラとの双頭アルバムを待ち続けている私としては、文句無しです。
この声こそがクァンティックを構成する音の中で最も大事な要素だと思う。
まだ活動していたの?と驚きのシャインヘッド登場の“Spark It”もいい。
ダンスホール・レゲエをクァンティック流に捌いた曲だが、
前半の曲と比べ、聴くものを曲にのめり込ませる力が違う。
イアーラ・レンノ(と読むのか?)とのメロウなサンバヘギ“Caruru”は、
レンノの可憐さにマッチするグニャグニャしたダブ処理に加え、
随所で加わるメロウなホーン・セクション。本当に良い曲だ。
レンノ嬢はきっかけ次第で大ブレイクしそう!
伝説のアコーディオン奏者アニーバル・ヴェラスケスをフューチャーした
“La Callejera”も目玉曲の一つ。
リズムのプログラミング自体は割と平板なんだけど、
ホランドのギターとベースが躍動感を与え、そこに中南米のオジイサンのもつ
深みと独特のやさぐれ感をもったヴェラスケスの声が加わるわけで、
悪いはずがないではないか。
若き日のアニーバルさん、男前だ。
ゴンゴーラが再登場する“Muevelo Negro”はバラフォンの音?をループさせた上で、
コーラスとゴンゴーラが対話する曲で、構造はシンプルだけど長ければ長いほど
気持ち良くなるタイプの曲ですね。
“Aguas de Sorongo”は“Caruru”と並び、もっとも一般受けしそうな曲。
我が家のムスメが気に入るぐらいですからね。抜群の遠投力と浸透力。
前半の曲がやや弱く、あまりに素晴らしすぎた近作4枚には敵わないが、
やはり今年のベスト10には入ってくるアルバムでしょう。
中盤以降に良い曲が固められているのが少し勿体ない気も。
曲順(CDとLPの曲順も少し違う)を工夫すると、印象も変わった気もしますけどね。
まあ、私としては、ゴンゴーラとのデュオ作を早く!ということと、
早めの来日公演をお願い!という毎度毎度同じことを述べたところで。
まあ、お勧め度合いとしては8.5点で、買って損はさせませんが、
コンボ・バルバロとのCDを持っていないのだったら、やっぱりそっちを先に
購入することを強くお勧めします!