THE LAST HOLIDAY: A MEMOIR

ギル・スコット=ヘロンの自伝、こなれた価格(ま、古本のことですな)で発見、
柳に飛びつくカエルではなく、ハエに飛びつくカエルの様に
ガバっと抱え込む私。これは前からずっと狙っていたのですよ。
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ギル・スコットの自伝の邦訳出版!ということだけでも、
これは全く暴挙としか言いようがない訳で、
流石はQ兵衛師が社員として所属するスペース・シャワーだと感心しつつも、
定価3200円か、うーん、手持ちのおカネが入ったタイミングで、
おお、本屋に並んどるばい、立ち読みしてみよう、
いや今立ち読みすると本気読みに入ってしまう、
そもそもキチンと買わないといかんだろう、いや少しだけなら等と
逡巡すること3カ月強、結局、古本で買ってしまいました。
すまん、スペース・シャワー・ブックス。
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ファンク詩人?ファンク哲学者?ファンク・ジャーナリスト?
黒いディランとも言われるらしいが、ディランのことを何も知らないので、
その辺はピンとこないけれども、流石にその名を馳せたギル・スコット=ヘロン、
文章の表現がもう抜群。随所に挟まれた詩もまた素晴らしい。
ぐいぐい引き込まれて一気読みですね。

もともとはキング牧師の誕生日を祝日にするために活躍した
スティーヴィー・ワンダーを讃えるための文章を書いていたのが、
結果的に自伝に繋がったという作品ですが、2年前に突如亡くなってしまったので
こういう作品を残しておいてくれたことにまず感謝したいですね。
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まずは、自身のルーツについて書かれた部分が目玉かな。
中盤に出てくる父親の話もグッと来るけど、
一族の女達、祖母や母親が極めてカッコイイ。
ミシシッピのジャクソン出身の一族。
ヴードゥー・クイーンのような祖母の毅然とした姿も印象に残るが、
名門学校の教師達と対決する母親の姿が前半最大の見どころ(読みどころ)。
私は電車の中で拳を握りしめましたもん。
やはりジャクソンはメッカの一つですね。カサンドラもジャクソン出身だし。
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音楽の話は意外に少なめ。
子供の頃から音楽が好きだった話等は結構あるけど、
デビューしてからの音楽の話は控えめ。
相棒のブライアン・ジャクソンがやはり鍵を握っていたということなのかな。
ファンクにラテン・パーカションを積極的に盛り込んだ話等が
読んでみたかったかな。(その辺の評価は不当に低すぎる。本当に)
あとは、早い段階で原発に反対していたアーティストとして、
その辺の話も聞いてみたかった気がする。

90年代に入って、ヘロインで逮捕・投獄されていたりしたので、
レア・グルーヴ再評価の中で、新作が発表出来なかったのが
今考えると、大変もったいなかったな。
この間に台頭してきたヒップホップとの共闘がもっと出来ていれば、
その視点から素晴らしい音楽が編み出せたと思うし、
ヒップホップ側に対してもインパクトを与えることが出来たはずなのだが。
90年代中盤にQティップとかプレミアとかンデゲオチェロ、
00年代にクエストラブやコモン、モス・デフなんかと共演出来ていたら、と
夢想してしまうのは私だけではないでしょう。
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ところで、この本の目玉、少なくとも私が大興奮したのは、
スティーヴィーのツアーにマイケルがゲスト出演する場面。
ギル・スコットの筆が実にいきいきとマイケルの姿を描き出す。
正直、マイケルについて触れた文章を散々読んできましたが、
ここまで、その本質を捉えた素晴らしい文章を読んだことはありません。
抜粋してみたのですが、出来たら丸々読んでほしいので、
376ページから384ページは出来たら本屋で立ち読みでもいいので、
ギル・スコット=ヘロンの文章をまるまる読んでほしいです、はい。
というか、その日の映像、残っとらんのかい!絶対あると思うんだが。

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ちなみに、最高傑作はこのアルバムで間違いないでしょう。
ラフでタフでドープ。やるせない響き、ロマンティシズム。
ああ、ギル・スコット=ヘロン!
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以下は抜粋です。
しつこいけど、出来たら、読まずに本屋で読むように。



おれはよく人にどれだけマイケルが特別な存在かという話をする。まるで彼らがそれをわかっていないというかのようにだ。というのは、おれ自身がわかっていなかったからなのだ。おれはわかっていると思っていた。マディソン・スクエア・ガーデンで彼がステージに出てきて「マスター・ブラスター」を歌うまでは。

スティーヴィーは(中略)思いっきりニヤリとして、「スペシャル・ゲスト」の方に手招きした。彼が誰だか紹介する必要なんてない。おれが後ろを振り返ると、彼は三歩ステップを踏んでビート一つ分静止し、まっすぐな姿勢で立った。霧が人の姿へと固体化したように見えた。

マイケルは、ただステージに歩いてきただけじゃなかった。彼はこちらに向かってきながら、固体になったのだ。光のトリックだ。彼はおれの横を浮遊するように踊り、スポットライトに立った。

サビに差し掛かると、それはまるで波に着水した大きな輸送船のようだった。マイケルとおれはビートに乗って同じハーモニー音で歌い出したが、すぐにマイケルは、ステージの暗がりから俺の脇へと浮遊するように歩いてきたときと同じくらいスムーズに、おれとの音の衝突を解消し気持ち良く歌える次のハーモニー音へと移行した。

その夜、おれは6フィートのマネキン人形になったような気分で、巨大な灰色のアイスクリーム・コーンのようなワイアレス・マイクの下の方をしっかりと握り、二人の声をちゃんと拾うようにと、硬直した姿勢で二人の間に腕を延ばしていた。それはまるで虫取り網で水を掬うような気分だった。おれは不動の姿勢でマイクの位置を固定することに執心した。動かずに立っているときでさえも、マイケルはあらゆる方向に流れ出しているかのようだった。本当に流れ出していたのかもしれない。それ以上何も考えられなくなったおれは彼にマイクを渡し、自分側のステージの暗がりへと歩いて行った。

要するに、おれは二つのワンダー(不思議)を同時に目撃することになったのだ。すぐ近くには、俺がいた場所の方向に頭を傾けながら、ステージ中央のキーボードの山の後ろに座る笑顔のスティーヴィー、そしていつもおれが立つべき位置を教えてくれる柔らかい光の円に出たり入ったりしながら、あり得ないバランス感覚で体を曲げたり、独楽を回す紐のようにテンポを自らに巻き付けている、その若者。するとマイケルは紐を引き、骨のないアイススケーターのようにくるくる回転し出した。Aメロの導入部がやって来てスティーヴィーが歌い出すと、マイクは銅像のように動かなくなった。完璧なシンメトリー(対称性)だ。
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by zhimuqing | 2013-06-19 00:28 | Funkentelechy | Comments(4)
Commented by hide at 2013-06-19 12:25 x
ご存知ですか?実はワタシ、三重県中部地方で一番のギル好き(ジョニーギルではありません。)を自負しておりまして、もちろんこのアルバムは大好物です。ザ ボトル、アンゴラ ルイジアナ…晩年エッセンスミュージックフェスティバルにコッソリ出てたのが思い出されます。亡くなった時は、え?×10くらいのショックでした(>_<)黒いボブディラン。ワタシの友人に地黒でイケメンの友人がいますが、黒い氷川きよしと呼んでます。
Commented by zhimuqing at 2013-06-19 19:22
>> hide兄さん

おお、東海一番のギル好きだったのですか?
やはり素晴らしいセンスですね。

アルバム単位でいうと、このアルバムがやっぱり一番すきなんですが、
他にも名作いっぱいありますよね。
それにしても不当に低い評価が歯痒いのと、
まだまだ良い作品が作れる人だったので悲しいのと
色々な気分になりますね。

ところで、もう一人のギルさんとなると根強くあちら系との噂があるので、
ギル姐好きとなると、おお、そうなんですか?となるのですが、
その辺もまた奥が深いみたいですねぇ。

ということで、さりげなくギル姐さんからきよしさんに繋げる兄さんの
腕前に脱帽です!
Commented by hide at 2013-06-19 21:19 x
いっそのことホセジェイムスにトリビュートアルバムでも出してもらいたいです。何となく似てるって言うか。私クラスになると頭の中でボーカルを変えて楽しんでます。ディオヌワーウィックのアルバムのボーカルをフィリスハイマンに…なんて(^-^)あ、ジョニーさん、噂じゃなくマジみたいです!bmrに書いてありました(笑)
Commented by zhimuqing at 2013-06-19 23:10
>> hide兄さん

トリビュート・アルバムの構想、燃えますね。
色々頭に浮かんできますが、まだ消化不良ですので、
そのうち、手持ちの札を出し合いましょう!
ホセ・ジェイムズはたしかに当確!ですね。

頭の中の変換モードですが、私はンデゲオチェロの声をカサンドラに置き換えているレベルなので、
兄さんにはまだまだ及ぶべきもございません。
そのうち、そう来たか!!ってのを披露したいですね。

bmrのやつはQ師の記事ですね。あの人ぐらいですもんね、そこに踏み込む人は。
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