そこに本物がいるのだから

アリス・ラッセルとのアルバムがとても素晴らしかったクァンティック、
ロス・ミティコス・デル・リトモ名義でのアルバムは
オーセンティックに徹した音作りに愛情を感じるものの、
軽やか過ぎる内容に今一つ刺激を感じなかったもんで、
ほとんど聴かないままになっていた私。
そんな訳で、ウィル・ホランドが手掛けた新しいプロジェクトである、
このオンダトロピカ、なかなか手を延ばす気になれなかったのだが、
勝手な思い込みは何の役にも立たないことを改めて思い知らされる結果に。
問答無用で素晴らしい音楽がここにあるのだ。
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埋もれていた国宝級のベテランを気鋭のプロデューサーが引っ張り出し(再発見し)、
世界に広く紹介する、ありふれた構図に見えるかもしれない。
事実、ブエナビスタ・ソシアル・クラブのコロンビア版と紹介されていることも多いよう。
確かにブエナ・ビスタもそれはそれでとても素晴らしかったのだが、
しかし、オンダトロピカにはもっと違った感触を感じるのだ。

昨年の10月にDJ Juan Dataにインタビューされた際のホランドの発言
その答えがあるのかもしれない。
(DJ Juan Dataはビルボードのスペイン語版等に寄稿しているDJ、ライター)

その音楽を作ったミュージシャンが、今まさに自分の目の前で演奏しているのに、
昔の音源を漁る人々のほとんどが、そのミュージシャンに見向きもしない。


また、こうも言っている。

新しいクンビアはクールだし、昔の音源をサンプルした曲もグレイトだ。
だが、コロンビアの多くのミュージシャンは同じように演奏出来るのだ。
また、昔の音源に新しいビートをマッシュアップしているものも多いが、
元の音楽だけで完璧なのに、アメリカ人受けが良くなるように
あとからビートを乗せる必要があるのか?


これまで次々と埋もれてきた音楽を掘り出して、
世界に紹介してきたホランドの言葉だけに、
なかなか説得力のある言葉ですね。
安易にサンプリングする必要も無い。そこに本物がいるのだから
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ベテランのミュージシャンのこれまでの経歴に対する敬意の深さ、
この辺がジャイルズ・ピーターソンとは違う部分ですかね。
(とはいえ、ピ-ターソンの軽さも嫌いでない、というより、結構好きなのだが)
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過去の音楽に深く敬意を表明しつつ、単なる懐古趣味にも陥らず、
今、現在、求められている音楽とのバランスを保つ、その感覚の絶妙なこと。
当然、最新型のファッション、意匠の枠に無理矢理はめ込むようなこともしない。
ソウルの偉人、ブルーズの偉人に対して、英米のロック勢が敬意を示しながらも
その素晴らしさを活かしきることが出来なかったのと対照的であるともいえる。
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ちなみに、オンダトロピカの音楽的な成功は参加ミュージシャンの実力と
ウィル・ホランドによるものだけでなく、マリオ・ガリアーノの力も大きいと思われる。
フレンテ・クンビエーロのリーダーにして、作曲家、レコード収集家、大学教師、
そしてベーシストの肩書を持つ男。
クァンティックのメンバーに加え、フレンテ・クンビエーロのメンバーの貢献も大きいはず。
更にコロンビア在住の若手ミュージシャンの選定にも大きく関わったのではないかと
私は睨んでいるのだが、どうだろう?
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このプロジェクトにはフォトグラファーとしてB+も参加!
流石にいい写真が随所に。

当時のコロンビア音楽への敬意はミュージシャンのみならず、
ディスコ・フエンテス等のレーベルやスタジオにも向けられる。
ディスコ・フエンテスのスタジオにいるのは教会にいるのと同じ。
ソウルが染みわたる、とは他のインタビューでのホランドの発言。
ブックレットの参加ミュージシャンの紹介欄にも、
フエンテス専属のエンジニア、マリオ・リンコンを愛情たっぷりに紹介。
こちらもいい笑顔になるではないか!
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曲の良さに関しては、とにかく聴いてもらうしかない。
的確に表現するボキャブラリーも持ち合わせていないし。
リズム隊の素晴らしさは改めて言うまでもないだろう。
アルフレディート・リナーレスのピアノとエレピは特に印象に残る。
がらっぱちなホーンはいい意味でヤサグレていて、ストリート感覚濃厚。
ヘナヘナしたクラリネットの音は最高だ。
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でも一番盛り上がるのは、クァンティックがこれまで様々な媒体で紹介してきた
コロンビアのレジェンドがこのタイミングで一堂に会していることかな。
以前散々ネタにさせてもらったフルコの味わい深さに変わりがないところが
特に香ばしい、いや間違えた、喜ばしい。
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フルコ(左)の味わい深さたるや!
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アルバムに収められた19曲もとうぜんそうだが、
ジャケに封入されたパスワードでダウンロード出来るボーナストラック7曲、
いずれも汎カリブ海の音楽をごった煮に煮詰めたもので、
正調なクンビアもあれば、そのものずばりデスカルガもあれば、スカ調なものもある。
ダビーな音響処理されたパートも随所に。
とはいえ、アルバム通して統一感があるのは、ホランドとガリアーノが根っこにある
アフロ成分を前面に、全面に押し出しているため。
ここは件のインタビューを原文のまま引用した方が良さそうだ。

we have to remember the importance of the African drum patterns

やはり、この人は良く分かっている!
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それにしても、ウィル・ホランドの精力的な働きぶりは凄まじい。
ディガーとしての仕事、DJとしての活動、ミュージシャンとしての作品発表、
そしてライブ活動、いずれも高いレベルで共存させている。
ヒップホップ系では結構あるが、楽器をメインでこなすミュージシャンとしては
あまり例がないのでは?
今年度に関しては、十二分に仕事はやったと思うけど、
ウィル・ホランドに一つだけ注文を付けるとしたら、当然あのことですね。
おい、日本でのライブが決まったと言う話はまだ聞こえてこないぞ!
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このフライヤーの日本バージョンが欲しいのだ!
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by zhimuqing | 2012-08-24 01:28 | Rumba DE Manbo! | Comments(4)
Commented by ぼん at 2012-08-24 09:22 x
そうだ!激しく同意!! > 安易にサンプリングする必要も無い。そこに本物がいるのだから
Commented by zhimuqing at 2012-08-24 12:55
>> ボン兄さま

私の場合、本物のようになかなか演奏できないのが
まあ、一番問題であるといえます(泣)。
Commented by ごっぱち at 2012-08-28 05:43 x
たまに私をくすぐるところがよい
ポチしました♪
Commented by zhimuqing at 2012-08-28 13:08
>> 58兄様

ご無沙汰してます。
クァンティック、かなりいいので、オンダトロピカ同様是非とも。
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