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死より悪い運命

随分前に買って、読まずに放置していたカート・ヴォネガットの本を読みました。
エッセイ『死より悪い運命』、裏表紙には自伝的コラージュと書いてますね。
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勉強不足なので、ヴォネガットの著作を読んだのも初めての私ですが
自伝的コラージュと言われているだけあって、
様々なところで書いたり、講演したり、インタビューされたりしたことを
自分とその家族の話を混ぜ合わせて、回想している本。
初めはこのコラージュ具合に少し戸惑ったのだが、
文章自体は読みやすいし、このスタイルに慣れて以降は
ただひたすら一気読みでしたね。

なんといってもウィットに富んだ語り口が最大の魅力なのだが、
ナチスの捕虜として迎えたドレスデン爆撃の経験を踏まえての
徹底した平和主義にも深く共感させられますね。
とはいえ、全編にまぶされたユーモアが説教臭くさせない。
(もっともこのユーモアは立場変われば、結構劇毒なのかもしれない。
 でも、そもそもそういう人はこの本読もうと思わないか。)

随所に素晴らしい言葉が散りばめられていて、
アンダーライン引きながら、読みたくなる本でもありますね。

(p10~11)
ドイツ人の国民性の一番危険な弱点は「従順さ」だ。

(p251~)
キリスト教の「汝、隣人を愛せ」は憎悪を生みだす原因になっているので
「汝、隣人を尊敬しあいなさい」に変えるべきだ。

(p299~)
読書というものは睡眠と覚醒の中間にある快適な瞑想と同じようなもので
本は人類文明の核にある最大の宝物かもしれない

(p249)
この国で進行中の倫理的宣言に耳を傾けた結果、
堅固な戒律を二つだけの引きだすことが出来た。
第一の戒律は「考えるな」、第二の戒律は「服従せよ」

(p370)
絶望は独創の母、独創の3人の美しい娘、絶望の孫娘たちは
希望と、他人への感謝と、不動の自尊心


うーん、こうやって無理やり抜き出すと、味わいというか深みが
ものすごく失われてしまうけど、それでも味わい深いです。

この本のハイライトは、アルコール中毒者更生会を枕に
「戦争準備中毒者」をこき下ろすエッセイの再録部分から
先の「愛を尊敬に変えろ」に続く中盤部分。
面白くて、電車を乗り過ごしそうになります。
また、モザンビークの救援組織やKKKに対抗する弁護士、
薬物依存症を治療する病院と医師等といった人々に対する
シンパシーが全開になる後半もなかなか力が入っていて面白い。

そんな訳で、大変満足したのだが、ヴォネガットの本職は文学者。
ということで、次はこの人の小説を読む必要がありそうです。
アメリカで有害図書リストに入っているらしい『スローターハウス5』あたりから
始めるべきでしょうかね。
なかなか良い鉱脈を見つけましたよ。
死より悪い運命_e0147206_904070.jpg
ちなみに一つだけ気になる部分があるのを思い出した。
文中で「最高のジョーク」として紹介されているジョークは、
正直そんなに出来が良いものばかりでない。
この辺はそれこそ文化の違いなのかな?
by zhimuqing | 2010-08-06 08:57 | La Sombra Del Viento | Comments(0)
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