不思議な調和と繊細さを湛えた美しい音楽

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ジル・スコット2004年のアルバム『Beautifully Human:Words & Sound』は
まるで気持ちの良い5月の一日の空気を表現しているようだ。

アルバムを通して聴くと、まずアッパーな曲に耳が奪われる。
ドラム+ベースの組み合わせが寄せ木細工のような『Golden』は多幸感溢れ、
ドープネス極まるリズムにたゆたうギターが寸止めする『Bedda at home』、
続く『Talk to me』はジェイムズ・ポイザーの指揮するゴージャスなビッグバンド。

曲の良さもあるが、リズムを優雅に乗りこなすジルの歌が実に見事。
歌メロを自在に崩しながら、前ノリになったり、ためにためたり、
声の焦点深度や喉の絞りを自在に使い分けている様は
そこに相手がいないのに相手がいるように見えるという
達人によるシャドーボクシングを見ているようだ。

アルバムの中盤に差し掛かると、ジルがミディアムナンバーで本領を発揮し、
その世界観の拡がりに圧倒されそうになる。
声やリズムの使い分けは更に刺戟的になり、
一人の女性のタフな佇まいの中に垣間見えるセンシティビティーを描きだす。
その表現には作為的な感じが全く感じられず、
実にすっきりと聞き手の細胞に浸透していく。

『Can't explain』、『Whatever』、『Not like crazy』と続く展開では
歌、曲、演奏、アレンジ、音質、曲と曲の繋がり、
全てにおいて高いレベルで見事に調和している。
そう、このアルバムを一言で評価すると『調和』という言葉に尽きるのだ

アルバムは後半に進むにつれ、原形質流動をなだらかに控え、
地上30センチの高さで穏やかに滑空する『My petition』に辿り着く。
気持ちの良い眠りに就くような『I keep』で一旦幕を閉じるが、
その後のボーナストラックは夢の中の活劇のようで、
気持ちの良い風が吹く一日が終わっていく。

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様々な良い条件が揃って、この奇跡のような美しいアルバムが出来たのだろう。
ネオ・フィリー軍団のポテンシャルが一番高かった頃でもあるし、
Hidden Beachというレーベルも良かったのだろう。
この後、ジルは3枚目のスタジオ・アルバムを出したのち、女優として成功を収めており
現在上映中の映画『Why Did I Get Married Too?』も好調らしい。
一人のアーティストとしては現在絶好調なのだろう。
今夏にも新作が出るという話もある。

しかし、この不思議な調和と繊細さを湛えたアルバムを超えるものを
ジルは完成させることが出来るのだろうか?
私は心から期待しているのだが、そうではあるのだが、
なかなかそれは難しいのではないかと、
若干ながら心配しているのである。
そういう要らぬ心配をさせる程「Beautifully Woman」は美しい。
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by zhimuqing | 2010-05-29 02:28 | Funkentelechy | Comments(0)
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